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「はいっ、お電話ありがとうございます、アウトレットモール倉橋、マルマルが電話をお受けいたしますっ、……はいっ、はいっ、あ、下着の不良品ですか? はい、少々お待ちくださいっ」
山本さんは受話器をそのままガチャンとテーブルに置き、
「マニュアル、マニュアルっ、えーっと下着ってどこの店? あー、店の名前を聞くの忘れちゃった。でも、女の人だから、えーっと、あれ? 保留にしてなかったっ、失敗、失敗っ!」
私は血の気が引くのを感じ、すぐにパーテンションから飛び出た。
彼女は受話器を持って、
「三浦さーん、最初に下着って言われても難しいです、店の名前を聞いておけばよかったですねぇ」
と、口にする。
すぐさま首と手を振って、彼女へ手を差し出した。
「私じゃない。それ本物のお客様だから、貸して」
「え!?」
電話口で混乱したような客の声が漏れ出ている。
「大変失礼いたしました。お客様のご用件をお伺いいたします」
保留にしていなかった声は客に聞こえていたためか、何が失敗なのかしら、と不快な感情で文句を言われた。それに対しすぐ謝罪を行う。内容を聞き、キャッチを押し、目的である店につなぐ。先に電話口にテナントの店員が出たため、内容を簡潔に伝え、受話器を置いた。
山本さんは、焦ったような表情でそのやりとりを見ていたが、素早く頭を深く下げた。
「すみませんっ、その私、てっきり三浦さんかと思って……」
「タイミングが悪かったよね……、保留にしなかったのもそうだけど、応答した時、マルマルですって……、そこは自分の名前を言うところだよ。……えーっと、家の電話とか取らなかったの?」
「おじいちゃんの家には電話があるんですけど……、家には電話がなくて、携帯でしか話したことないんです。画面もないので、誰からかかってくるかも分からないし……、その……マニュアル通りじゃないとーーー、」
家電は三世代前なの?嘘でしょ?
14歳差の常識に驚く。
「家に電話がないの?」
「はい、すみません」
「……そっか、こっちも実践なんて言って、焦らせちゃったね。マンツーマンで丁寧に教えるから、まず電話では自分の名前を言おう」
これが世代間ギャップというもの?
指導係なんて当たったこともないし、こんなに歳が離れた子と話す機会もないから分からない。根気よく教える必要がありそうだ、とメガネを外し、眉間を押さえる。
すると山本さんは驚いたように私を見た。
「三浦さん」
「ん?」
「三浦さんって、すごく美人さん……、彫が深くて、綺麗な二重ですね。鼻は高いし、唇もーーーって、いきなりじろじろとすみません。メガネを外すと全然印象が違ったので思わず見惚れてしまって」
いや、怒られてるのに余裕だな。
さすが、Z世代だ。
私なら格好だけでも謝りつづけていただろう。
「……ただの地味なオバサンだよ。よく見ても面白くないって」
下手すると中身はオジサンだよ、と薄く笑う。
メガネをかけて首を振るとぼさぼさとした髪がさらに拡がった。
「それより、山本さんの電話。……何回も練習が必要だね。電話対応は社員同士でも大切だから。マニュアルはマニュアルで読み込んでもらって、結局は現場での応用力が問われるのよ。……って、ここのオフィス業務は簡単だから、すぐに覚えられる」
「はいっ、三浦さん、再びお願いします」
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