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水着を忘れた。
自分としたことが何たる失態、持ってきたと思っていてすっかり気にしていなかったばかりに何の確認もしないまま水泳の授業の直前となった今この瞬間。いざ着替えようと思った矢先に、何という悲劇、水着だけが水泳バックからなくなっているのだ。
端から見たら明らかに無様な格好であろう。クラスメイトが水着へ着替えている中、1人制服のまま水泳バックの中を凝視した姿勢で固まること約1分。今から他のクラスの友人に借りに行く時間はないし、そんな自分の惨めな姿など他人に見せたくなかった。
一体どうすればと奈落の底で絶望にくれていたら横から手が伸びてきた。
堀江〜、俺前の時間水泳だったんだ、それでよけりゃ使え。
それだけ言ってさっさとクラスを出ていった後ろ姿は、色の抜けた茶髪から拭き取れていない雫で背中を濡らしていた。
本来、ついさっきまで他人に履かれていた他人の水着を着ることなど言語道断であるが、この状況は致し方ない。アイツ以外に惨めな自分を見られるよりかはここで腹を括るのが男というもの。
意を決して手渡されたビニール袋の中身に手をつっこみ水着を掴んで取り出した。
その水着にでかでかと堀江と書かれているのを認識するのと、予鈴が校舎に響いたのはほぼ同時であった。
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