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見せかけだけの”愛してる”
「本当、ごめん…摩耶」
会社の会議室で婚約者の拓真は土下座をして謝る
彼の取引先の女子社員が会社まで来て、摩耶の前まで来て拓真と別れて欲しいと懇願しに来たのがきっかけで発覚した
取引先に行くたびに、何かしら関係を持ったのだろう
まだ20代前半の女子社員だったが如何にも、
若いだけの気が強そうな女性だった
拓真を見下ろす摩耶は深くため息をつく
「結婚はなかったことにしてください」
彼に返す言葉はすでにそこにはなかった
速攻三行半をつきつけ彼の前から消えた
婚約者が別の女性との間に関係を持っていたことが発覚して数日後
その場で、婚約破棄とさせた
しかし、噂が半端ない状態になり本社から支社に移ることになった
こんな事態になって一つだけ学んだのは…
「もう二度と、結婚なんてするものか!」
スキル自体も実績もあるため、すんなり支店に配属され本社よりは激務ではなくなったがそれなりに人間関係の構築から始めないといけないところは骨が折れることになる
(もう17時になるから業務終了でいいのかな…)
前田マネージャーに報告をするために席を立つ
前田は少し細面の顔立ちに穏やかな性格
チャームポイントなインテリ眼鏡
社長秘書も務めていたのか上層部の対応もコネクションも信頼も多くあった
そして適度に女子社員には人気がある
特に前田の出張後に持ってくるお土産は女子の心鷲掴みの絶品スイーツが食べれるため他の部署の女性もその日に限っては人数が増えていることが多い
「本日の日報はメールで送りました、そろそろ業務終了させていただきます」
前田の机の前まで行くと、摩耶は報告する
「おつかれさま、…明日部内飲み会がありますが参加で問題ないですか?」
「はい、大丈夫です、よろしくおねがいします」
前田さんの隙のない笑顔が返って怖い
見た目も物腰も全て完璧だが、彼には得体の知れない何か強いものを感じる
それはそうと…
晴れてひとり身になった故に、特に家に戻ってもすることがない
拓真との思い出の部屋にいるのも心のどこかで踏ん切りがつけないところがあり、不動産屋にいって思い切って引っ越しを考えていたくらい部屋に帰るのも億劫だった
飲み会自体は今は助かる方かな
飲み会当日
定時過ぎ、時間になると前田が参加者に声をかけ引き連れてお店に行く
今日はやたら女子の参加率が高い
前田さんの人徳なのかな?という雰囲気もある
他のチームの女子社員とも交流ができるから、今回の飲み会は徳が多いような気がした
隣に座った他のチームの女子社員が早速話しかけてきた
「神崎さんは本社でどんな仕事をしていたのですか?」
「私は総務兼法務の仕事をしていました」
「兼務していると大変じゃなかったですか?本社って忙しいという噂も多く聞いています」
すでに質問が飛び交っていた
ただし、本社勤務の男性と婚約破棄…という噂は広がっていないような雰囲気で、少しほっとした
全員が席につくとコースの食事が順次に物々しくテーブルに運ばれ、
お酒はそれぞれ前田が仕切って人数分まとめて注文をする
「神崎さん、お酒は大丈夫?」
「はい、本社の接待で散々飲まされたので多少大丈夫です」
神崎は笑いながら前田が進めるお酒を飲んでいた
「マネージャーはお酒得意そうですね」
「そんなことはないけど、一応嗜む程度にね^^」
前田が笑うと神崎はすこし顔を赤らめた
女子社員が人気があるのがなんとなくわかる
雰囲気は悪くない、そしてなにより眼鏡越しに感じる整った顔に人が穏やかな物腰にさりげなく気を使う態度
お酒を飲んでもその雰囲気を保たれているのはイケメンかなと感じてしまった
少し遅れて一人の男性が飲み会の席に合流してきた
「本社出向の森山です、出向自体は明日からですが前田さんの行為で飲み会参加させていただきます」
目鼻立がハッキリして黄金比を確立した美形男子
「素敵…」
すでに隣に座っていた女性も心惹かれている
部屋に入る時に森山と摩耶と目があう
目があって数秒しても逸らすことなくじっと見ている
ドキッ
え、何だ彼の視線は…
摩耶はすぐ視線を逸らす
あのイケメンは睨む癖があるのか?
怖い
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