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ふと目覚めたらまだ2時半だと壁掛け時計が告げていた。夜独特のひんやりした空気が素肌を包む。寒い、とか、寂しい、という感情は今更芽生えない。隣にいる図体だけはバカみたいにでかい後輩の、たくましくなった右腕ががっちりと自分を包んでいた。
お互いの体温で暖まった布団が心地よく、不思議と不愉快感はない。むしろもうこの状況になれてしまったと肯定した方が早いのではないだろうか。しかしそれはそれでプライドが許さない。あと妙に恥ずかしい。くそ。
んぅ、と擦れた声が隣の空間から聞こえてきた。
暗闇の中、手探りで温もりを確かめる。
「…そうま、さん?」
自分はもう暗闇に目が慣れているからイツキの顔はよく見えるが、寝起きの彼はまだ視点があやふやのようだった。
「イツキ、」
「ん、はい?」
「イツキ、なぁ、」
のど、かわいた。
こう言えば彼は必ず、じゃあちょっと待ってて下さいね、と言って台所から水を一杯、自分の分も持ってくればいいのに、一杯だけ持ってきてくれる。
そして俺が二口ほど喉を鳴らすのを見計らって、俺にも一口貰えますか、と静かに聞いてくるのだ。
その優しい声色を知っているのは世界に俺ただ一人だということに、優越感と愛しさが募る。
「すきだよ」
めったにめったに言わない、恥ずかしくて言えない言葉を、まだ夢の中の君に贈ろう。
朝目が覚めてもし覚えていたならば、
その時はそれは夢だと茶化してやろう。
不器用でしかない俺にはこれが精一杯の、彼へのほんの少しの恩返しだ。
少し目を丸くしてからふわっと笑った彼は、俺を腕の中に閉じ込めて、一言呟いてからまた夢の中へと潜っていった。
「しってますよ、」
ああ、彼はいつだって、俺が言葉にできない言葉すらも総てその耳で聞いているのだ。
素肌の擦れ合う心地よさに目眩がした。
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