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5分ほど沈黙が続いたが、彼女はうつむき加減だった顔を少し上げて、意を決したような目を向けてきた。
「ねえ、獅子ど……、いいえ司くん」
「はい」
「今日はわざわざ家に来てくれてありがとね。伊織の様子が最近明るくなった理由も、ようやくわかったわ」
「伊織が明るくなったのは同感です。最初は警戒心マックスでムッとした顔ばっかりでしたけど、少しずつ笑顔を見せてくれます」
「ええ、確かに笑ってくれるわ。まだまだぎこちないけど。司くんのおかげね。司くんが信頼できる人柄なのは今日で十分わかったわ」
「……ありがとうございます」
「ふふふ、本当に感謝しているのよ。……でもね、さっきも言ったけど、伊織から私に対しては、もう何も言ってもらいない。支えてあげることもできないわ」
「…………」
「だから、司くんが伊織の『運命』と信じて、お願いしたいの」
「……何でしょうか?」
「私の息子を、伊織を支えてあげて下さい」
そう言って、彼女は頭を下げてきた。
俺は正直びっくりした。
彼女とは今日が初対面だったし、警戒されて受け入れられることはないのは承知だった。反対されても、何度も何度も挨拶に来る予定だった。
でも違った。彼女は俺を彼の番だと信じてくれて、認めてくれた上に息子を託すとまでお願いしてきたのだ。
でも心の中で本当は、彼との交際に反対なのではないだろうか。まだ納得できなかった俺は、気づけばその不安を口に出していた。
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