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俺達は急いで身支度を整え、彼を迎える準備をした。
もちろん隠れるなんて真似はしない。
殴られる覚悟で、誠心誠意、翔子への気持ちを伝える決意をする。
とは言っても、流石にいろいろと不味いので、翔子には首まですっぽり隠れるタートルネックを着てもらった。
「……お父さん」
翔子が恐る恐る玄関のドアを開けた。
その先に佇んでいた紳士は、目を見開いて彼女の背後の俺を見据えている。
思ったよりも背が高くすらっとしており、こなれたように品のあるスーツを着こなしている。
なるほど、社長特有のオーラというか、凄みを感じさせる人だ。
「初めまして!お邪魔して申し訳ありません。私、翔子さんと交際をさせて頂いております、藤森と申します」
間髪入れずに深々と頭を下げる。
これで頭を上げた時には、胸ぐらを掴まれて殴られるかもしれない。
一呼吸置いて再び覚悟を決めると、顔を上げて彼女の父親を見た。
しかし目線の先の彼は……
「おー!君か!翔子の王子というのは!」
……王子?
「やめて!お父さん!!」
真っ赤になりながらお父さんに飛びつく翔子。
想像していたよりもだいぶ仲睦まじい様子だった。
彼女の話からして、てっきり仕事人間で家庭を省みない、失礼だが冷徹な頑固親父をイメージしていたから。
「藤森くん、娘がお世話になっております。父の宇佐美泰蔵です」
彼は朗らかな、人畜無害そうな笑みを浮かべて一礼する。
なんと物腰の柔らかい人だろう。
拍子抜けしてしまい呆然とする俺に手を差し伸べ、握手まで交わしてくれる。
……思ってもみないくらい、好感触じゃないか。
内心、ホッと胸を撫で下ろしながら、部屋に迎え入れて三人でお茶を飲むことに。
お父さんの手土産の、宇佐美製菓の揚げせんべいをつまみながら、恐ろしいほどに和やかな時間は過ぎて行く。
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