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「いやね、こないだ翔子が帰ってきた時、なんとなく様子がいつもと違ったので。お父ちゃんピーンときちゃって。しつこく聞いてみたら、『大切な人ができた』と」
「大切な人……」
何気なく語られたその言葉を反芻して、瞬く間に幸福感がこみ上げる。
ちらりと見た翔子は、恥ずかしそうに顔を赤らめ下を向いていた。
……俺のこと、きちんとお父さんに話してくれていたなんて。
彼女の気持ちがより真剣だということが伝わり、情けなくも泣きそうになるのを堪えた。
だったら俺だって。
「いやぁ、こんなに美男とは思わなかったな。翔子、やるじゃないか」
「お父さん!」
屈託なく笑う彼を見据えて、直後深く頭を下げた。
「俺、翔子さんとの交際、真剣に考えてます!一生かけて、大切にしたいと思っています!」
まだ付き合ったばかりなのにこんなことを言うのは、彼女にとっては少々重たいかもしれない。
だけどもう時間がない。
それに、この気持ちは本物だ。
なんせ三年も想い続けていた相手だ。
このまま……このまま、火遊びのように一瞬で駆け抜けてしまいたくない。
「結婚を前提に、交際を認めて下さい!」
つかの間の静寂。
恐る恐る顔を上げると、翔子は目を潤ませながら俺の方を見ている。
大丈夫、絶対認めてもらうから。
そうアイコンタクトをとるように微笑んだ。
しかし、お父さんの反応は……
「……藤森くん、ひとつお願いがあるんだけど」
気まずそうに苦笑いしながら、彼は言った。
「なんなりと」
結婚を認めてくれるなら、バンジーでも激辛フードチャレンジでも、なんでもする意気込みだ。
「僕、久しぶりに東京来たんだよね。よかったら、東京観光の案内してくれないかな?」
「は……はい」
悲しいほどにはぐらかされてしまった。
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