1623人が本棚に入れています
本棚に追加
「藤森くん、今日はありがとうな!楽しかったー!」
菓子屋巡りを終え、屋形船で遅めの昼食をとっている最中、彼はしみじみと感嘆のため息をついた。
周りでは昼間から酒を飲む客達の賑やかな声が飛び交い、騒がしい。
チョイスを間違えてしまっただろうか、と、少し後悔しながらも、屈託なく笑う彼と翔子にホッと胸を撫で下ろす。
風は冷たいが、外の空気を吸いながらの食事は楽しかった。
足元が掘り炬燵になっているのが有難い。
翔子はさっきから焼き鳥に七味をかけまくり、満足げに頬張っている。
逆に泰蔵さんは辛いものはあまり好きではないそうで、早くも食後のお汁粉を嬉々として待ちわびているのが微笑ましかった。
なんかすげー、良い親子だ。
この父あっての彼女あり、という感じで、いつの間にか泰蔵さんにも心を奪われている始末。
この、人を惹きつける魅力というのはなんなんだろう。
そう思いながら二人を凝視していると、それぞれが思い思いに食事を楽しむ手を止め、不思議そうにポカンと俺を見つめた。
……あー、好きだ。
「どうしたんですか?」
「なんだかすごく、嬉しそうだねえ」
「なんでもないです」
何故かとてつもなく胸が一杯になりながら、再び蕎麦を啜った。
「……藤森くん、翔子のことありがとう」
彼女が洗面所に席を立った時だった。
ふいに真剣な顔に変わる彼の様子にたじろぎ、慌てて姿勢を正す。
「こちらこそ!翔子さんとの交際を認めて下さり、ありがとうございます!」
なんて勢いで言ってしまったけど、……認めてくれたのか?
泰蔵さんは、一瞬表情を曇らせると、眉を下げて笑った。
「君のような人に見初めて貰えて、翔子は幸せ者だよ。……だけどね、……ごめん。あと二年で許して」
「え…………」
彼の言葉に、途端に目の前が真っ暗になる。
最初のコメントを投稿しよう!