せきがえ前夜

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 俺は、人生の大きな選択をし終えたばかりの姉の言葉を重く受け止めた。純真無垢だった俺は、このとき人の言葉の裏を読むことを覚えた。  それから中3の1年間は、友だちとも遊ばずゲームも止め、姉の通った進学校を目指して必死で勉強した。親はいつも通り早く寝なさいとか無理するなとか言ったが、だまされちゃいけない、と自分を鼓舞した。このまま姉より低いレベルの高校に入ったら、一生姉と比較され続ける。母親はいつもの声かけをしつつ、満足そうだった。姉の言ったとおりだ。  合格するには1年で偏差値を10以上も上げなければならなかったが、奇跡が起きた。俺は合格したのだ。部活の部長、修学旅行や体育祭の実行委員長を押しつけられ、泣く泣く引き受けたかいがあったというものだ。  さて合格はしたものの、開示された点数を見て塾の先生は目を丸くした。よくこの点で受かったなという目だった。俺は高校の授業についていけるか不安になり、生き残る道を考えた。そして全ての教科で平均以上の点を取るのは諦め、得意分野だけで勝負することにした。そのための『内職』だった。
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