夜の新宿で

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「ちょっと待ってくださいね。」 そう言って、カウンターの男性は、やりかけの手元を片付けた。 「お待たせしてすいません。…えっと、拓也さんのお嬢さんってことですけど、俺は、谷口海斗(たにぐちかいと)と言います。」 「従業員さんですか?」 「いいえ。拓也さんと父が友人で、よく、お店に来させてもらってます。今日は、拓也さんに頼まれた用事をしていました。えっと、そちらの方は?」 「ああ、すいません。兄の聖也(せいや)です。…あのう。父はどこにいるんでしょうか。どうしても、会いたいんですが。」 「今からは、ちょっと無理かな。」 「どうしてですか?」 時間は、まだ午後8時前。店にいないのなら父は自宅だろう。そこがどの辺りかは知らないが、不意に訪問しても、不味い時間では、まだないはずだ。 「面会時間過ぎてるからさ。今、入院してるんだ、拓也さん。」 珠美は、父の入院のことを、その時点では、知らなかった…。
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