親友の知らない顔

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海斗からの電話を切った速水彰(はやみあきら)は、ベッドで点滴を受けている拓也に聞いた。 「おい、拓也。…お前、子供いるのか?」 「えっ?…うん、まあ。…いるよ。」 いつもは、明るくはきはきとした話し方をする男なのに、凄く歯切れの悪い答え方をする。 「海斗が、お前の子供だってのが、店に来てる、どう対応したら良いって困ってたぞ。ここへ連れてこいって言っといたぞ。いいよな。」 「言ってから聞くなよ…。いいよ。来るもんは、仕方ない。」 彰は、ナースステーションに、遠方から子供が来たので、少しだけ面会お願いしますと頼みに行った。 彼は戻ってくるなり、ベッド脇の椅子にドンと腰掛けて、拓也に詰め寄った。 「お前、子供がいるって、何で今まで、俺に一度も話してないんだよ?」 「言ってなかったっけ?」 「とぼけるなよ。俺は、一切聞いてない。」 「…まあ、いるっていっても、長いこと顔見てないしなぁ。」 「そう言う問題じゃないだろう。俺達の年齢考えろよ。子供は、乳飲み子やよちよちのチビッ子じゃねぇだろう。どうせ、もう成人してるんだろう。 お前に、沖縄で何があったか知らないが、自分の子供に関しては、大人になるまで責任あるんだぞ。例え、成人してたとしても、長い間、顔見てないのは問題だろう。 後な、俺達は、何年友達付き合いしてるんだ。はっきり言って水くさいだろう。何で話さないんだよ。」 「悪かったよ…でも、人間さ、長く生きて来たら、秘密のひとつやふたつ、あってもおかしくないよ。 良い秘密ならいいけど、俺のは、良くないことだしな。実際、俺は、家族を捨ててきたんだ。だから、にこにこして、笑いながら、子供のこと話せるわけないだろうが…。」 「笑いながら話せないなら、泣きわめいても構わないから、話せよな…。 俺は、良いことも悪いことも、お前に隠してないだろうが…。」 そう言って彰は、すねた顔をした。いつも、クールな彼にしては、珍しい表情だった。
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