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拓也の喪が開ける一周忌が昨日終わって、これからしばらくは、延ばしている保と優香の結婚式の準備にみんな忙しくなる。そんな新城家に荷物がひとつ届いた。
夜勤だからと昼食の後、勤めているホテルへ出掛ける用意をしていた聖也は、その荷物を受け取ったのだが、送り主は東京の千秋で、自分宛てになっていた。
「千秋さんが何で俺に荷物を?」
気になるのですぐに開けてみた。中には、東京銘菓の詰め合わせが幾つかと、綺麗に梱包された本らしきもの。それと聖也宛の封筒だった。聖也は封筒の封を切って中の見ると、手紙と一緒に御供え用の不祝儀袋が入っていた。
とりあえず横に置くと、自分宛ての手紙を開いてみる。千秋直筆の手紙には、とても綺麗な文字が並んでいた。
【聖也さん、突然、宅配便が届いてびっくりしているんじゃないですか、驚かせてごめんなさい。
先日、教えて頂いた拓也さんの一周忌は、無事に終わったでしょうか。彰はとても行きたがっていたのですが、私が体調を崩してしまったので、参列を見送らせてもらいました。本当、年齢には勝てませんね。最近は、早めに予定を立てた遠出が、出来なくなることが増えてきた気がします。
さて、教えて頂いた一周忌のことを彰と話していて、私達の拓也さんへの気持ちを何か形にしたくて、色々考えたんですが、御供えを包ませてもらうことで落ち着きました。本当は、拓也さんのお墓参りが出来たら一番よかったんですが。聖也さん、私達の代わりに、それで拓也さんの好きだった物をお供えしていただけると幸いです。
それから、一緒に入れさせてもらったお菓子は、聖也さんと珠美さんのご家族みんなで召し上がって下さいね。目新しいものではないですが、人気のものばかりです。
後、別に梱包してある本は、私の新刊です。この歳になると長時間の集中力が低下してくるみたいでね、書き上げるのに思った以上に時間が掛かってしまいました。多分、これが私の書く最後の長編になると思います。とは言え、まだ引退はする気ないんですよ。作家として最後まで生きていたいと思っているので、体力の続く限り筆は下ろしません。有言実行です!
その本は、珠美さんにも読ませてあげてくださいね。きっと、気に入ってもらえると思うので。
では、また、会える日まで、みなさんお元気で。】
「千秋さん、こんなに気を使わなくてもいいのに…。」
不祝儀袋に頭を下げてから、残りの本の梱包を解いた。中の本には、【南十字星は珊瑚の島の上】とタイトルが付けられていて、表紙は、瑠璃色の海に浮かぶ島影とその上にほんの少しの残った茜空。更にその上の空は、濃紺で、銀色の星が輝いている絵だ。
【東京と沖縄…ふたりの青年を結ぶのは、誰にも切れない強い友情の絆だった】
「もしかして、この話って、親父と速水さんのことなのかな…。いけない、もうこんな時間だ。」
普段、文芸書なんて読まない聖也だが、その本を仕事の鞄に放り込むと、慌てて出て行った。
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