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フロントカウンターに備え付けてある椅子に腰掛けて聖也は、例の本を読んでいた。
「珍しいですね、マネージャーが真面目な顔して、本読んでるなんて。何の本ですか?」
今夜のフロント担当の城間花梨が、そう声を掛けながら、珈琲の入ったカップを前に置いた。
今夜は、珍しく客室からの問い合わせや要望の電話が鳴らない。こんな時は、何かしていないとあっという間に睡魔に襲われる。そうならないように、いつも色々試すが、聖也はそのために本を読んでいることは滅多になかった。
「ああ、知り合いに作家さんがいてね。その人から新刊だって送られてきたんだ。」
「作家の知り合いがいるんですか!?なんて人です?」
花梨はそういうなり聖也の手元を覗き込んだ。
「うわぁ!!すごい!!吉水千秋じゃないですか!人気作家ですよ!!」
どうやら花梨は、千秋の小説の愛読者らしくて著者名を見るなりテンションが上がっていた。
「いいなぁ、羨ましいなぁ。」
「何がだ?」
「だって、この本、まだ店頭に並んでないやつですよ。」
「そうなのか?」
「はい。私、読みたい本は確実に手に入れたいので
新刊発売がわかると、誰のやつでも、欲しいのは必ず予約入れることにしてるんです。このタイトル、間違いなく先月予約しましたもん。発売は来週ですよ。」
花梨は、今すぐにでも、それを読みたいけど、自分で新しい本を開くのが楽しみだから中は見ません、中身の話もしないでくださいと言って数独の本を開くと解き始めた。
聖也は、くすりと笑いながら、また本に目を落とした。本当に静かな夜で、アクシデントは何事も起こらない。おかげで聖也は、夜明けまでに最後まで本を読めてしまった。
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