南十字星は珊瑚の島の上•Ⅵ

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「何、ガチガチになってんのよ、保。ちゃんと優香さんをエスコート出来なきゃ駄目なんだからね。ほら、背筋伸ばして、いつもの笑顔よ。笑ってないと保の魅力半減なんだから。」   控え室でポンと珠美に背中を叩かれて、反射的に背筋を伸ばした。そして、苦笑いしながら答える。 「珠美叔母さん、ありがとう。頭ではさ、決めたことを順にやるだけだってわかってるんだけど、流石に時間が迫ってくると緊張してきちゃってさ。今ので、ちよっとだけ気持ちが楽になった。そうだよね、笑顔だよね。」 「わかってるじゃないの。」 そう言ってから、保の目を真っ直ぐ見詰めて珠美は言った。 「…あのね、こんな時にこんな話するもんじゃないってわかってるんだけど、一応言わせて頂戴。 優香さんは、今日から正式に家の家族になるわけだからね、これから先、どうしても南風原のことを気に掛けることになっちゃうわ。だけど、彼女には、南風原のことを背負わす必要ないからね。 将来、南風原のために何かしたいって保は、ずっと言ってくれてたよね。その言葉と気持ちだけで、私達は、もっともっと頑張れる。それだけで十分。 保は、私達のことを気にする必要はないわ。家には、双子だっているし、南風原を会社にした時から、いつかは、新城の家以外の人が経営に携わってもいいって考えてるの。 保は、自分のやりたいことをやって行きなさい。そのためには。優香さんの協力が必要なんだから、彼女のことをいつでも最優先に考えてあげるのよ。」 「…でも。」 「でもも何もない。いいこと、結婚するってことは、相手の人生にも責任を持つってことよ。保は優香さんがいつでも笑っていられるようにしてあげることが一番大事なことなのよ。 それにね、まだまだ私達は働き盛りの年齢なの。心配してもらうのは、早いのよ。私には壮馬がいるし、お兄ちゃんや梓姉さんもいるんだから、あんたが出張ってくるのは、その後なの。南風原にばかり目を向けてると、大事なものを取りこぼすよ。 ほら、気持ちを優香さんにだけ向ける。花婿は、花嫁に幸せな気持ちを届けなきゃ失格よ。」 「ありがとう、珠美叔母さん。」 保は、珠美の言葉を噛み締めながら、まずは、今日の結婚式を成功させようと気持ちを切り替えた。 これからは、自分一人の人生じゃない。優香とふたりの人生の始まりなんだと改めて思った。
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