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雑音
『速報です。 今月に入り、また耳だけが無惨に刈り取られた遺体が見つかりました。犯人は未だ見つかっておらず…… 』
テレビから流れてくるニュースは今日も物騒だ。どの番組も事件の話で持ち切りで評論家のごとく熱弁する者や、涙を滲ませ神妙な顔つきのタレントがアップになるたびに嫌気がさしていた。
物騒な事件を自分事に置き換えて涙するなど余裕のある奴がすることだ。
影山は先月バイトをクビになり、貯金が底をつくのも時間の問題だった。季節を問わないえんじ色の長袖に腕を通し、吸いかけの煙草に火をつけた。吐き出す煙を見つめながら、楽な仕事は無いかと片っ端から求人雑誌を見ていった。しかし、簡単に都合のいい仕事は見つからない。消えかけた煙草にもう一度火をつける。次第にまぶたは重くなり雑誌を放り投げた。ベッドにもたれ、どのくらい時間が過ぎたのか。不意に現実に戻ると音が響いてきた。ドアを叩く音だ。力のない小さな音だったが、鳴り止まない音に次第に苛立ちをおぼえていった。
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