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龍太を含む四人は、その後ほかの部員と一緒に、クラブハウスでシャワーを浴びて、着替え、学校の最寄り駅まで歩いてから、さりげなくはぐれて引き返してきた。
もうすっかり暗くなって人気のない校門を、体格のいい高校生四人が入っていく。それぞれの表情が、強い使命感を帯びている。
このあと、監督のいるクラブハウスに突撃する。
四人はスポーツバッグを背負い、無言のまま、明かりのともるクラブハウスに向かっていった。
ことの発端は、大島が、ラグビー部の後援会の副会長から山端監督がなにか受け取っているところを目撃したことだった。大島はたまたまひとりで、クラブハウスの執務室に保険の書類を持って行ったのだった。そして、監督が受け取っていたものは小切手だというのだ。大島の家は自営で商売をしていて、小切手も見たことがあるからすぐわかった、と興奮して話した。
ラグビー部の後援会の会長は、今年八十歳になるOBが務めていたが、実務は副会長の赤井が行なっている。赤井は、龍太の同級生でラグビー部に所属している赤井亮二の父親だ。亮二は明日の先発メンバーに選ばれている。
「騒ぐようなことか? それって普通に、ラグビー部への寄付金ってことだろ?」
龍太がのんびりいうと、大島は顔を赤くして否定した。
「そんなはずはない。スポーツ振興寄付金はラグビー部宛てであっても、いったん学校の口座に収めるんだ。そこから各部に分配される仕組みになってるんだよ。直接個人に手渡すはずないんだ」
酒井は悩ましげに眉をひそめた。
「お前が言いたいのはさー、父親が監督にお金を渡してるから、赤井はメンバーに入れたってことだろ?」
「いや、それはないだろ」
龍太は大きく首を振った。
龍太は山端監督の顔を思い浮かべていた。太い眉の男らしい顔だ。怒ると怖いが、裏表のある人ではないと思う。あの人を疑いたくなかった。
「赤井だってすごく頑張ってただろ? そんなふうに疑うのはかわいそうだよ」
酒井がぼそぼそと反論する。
「赤井は父親のやってることを知らないんだと思う。あきらかに下手な選手なら、さすがに無理があるだろうけど……同じくらいの実力だったらどうだ? メンバー入りぎりぎりの実力だったら? 監督だって使うメリットの多い選手を採用するんじゃないか?」
大島が全員の顔をみまわすと、三人は黙ってうつむく。
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