11人が本棚に入れています
本棚に追加
全てのジャージが選手に授与され、主将の川内による決意表明が終わった。
選手たちは解散し、マネージャーたちが、明日持って行く荷物の最終確認をしている。
「リュータ、応援旗たたむの手伝ってくれる?」
マネージャーのひとりに声をかけられて、三メートルほどの横断幕の端を持った。
ヒモのついた部分を持ち、旗をピンと張って、マネージャーが反対の端から巻いてくるのを待つ。年季の入った応援旗は、いつもはグラウンドのフェンスにくくりつけられているが、明日は学生の応援席の最前列にかけることになっている。
濃紺の地に『臥薪嘗胆』と筆文字で染め抜かれている旗は、ラグビー部のOBで構成される後援会から贈られたものだ。
長年、グラウンドで選手とともに風雨にさらされたおかげで、全体の色は褪せ、生地もところどころ傷んでいる。龍太が持っているところも端がほつれていて、今にもそこから破けてしまいそうだ。
監督は「今夜は全員、早く寝ろよ」と言い残して、クラブハウスのほうへ歩いていった。
龍太が旗をたたみ終わると、さっと三人の仲間が集まってきた。大島、酒井、神田。全員三年生だ。そして全員が、明日の試合のメンバーから外れていた。龍太と同じように、ケガで出られない大島。残りの二人は自分のポジションにもっとすぐれた選手がいたため、はじきだされた格好だ。
「決行するか」
「やるしかない」
「今夜な」
緊張の面持ちで、ひそやかに言葉を交わした。
最初のコメントを投稿しよう!