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神田が暗い表情で口を開いた。
「たとえそういう事実があったとしても、俺は赤井だったらあきらめがつく。赤井は実力あるからな。だから俺らの代はいいんだ。でもこの後はどうなる? このまま、この疑惑をほっとくのか? 金銭の授受は横行するのか? 監督への寄付合戦が始まるのか?」
「そこだよ」
大島は我が意を得たり、とばかりに大きくうなずいた。
そんなことになったら古豪復活ところか、雪城高校のラグビー部は腐敗しきってしまう。
龍太は腕を組んで考え込んでいた。山端監督を信じたい。しかし、たとえなにかの誤解であったとしても、そんな噂が選手や保護者のあいだに伝わったら、面倒なことになる。
「それで……お前はどうしたいんだよ」
龍太が大島にたずねると、大島はきりりと決意のある顔になった。
「俺たちで監督に直接話しに行こう。俺たちは、赤井をおろしてほしいって話しに行くんじゃない。来年以降はそういうことでメンバーを決めないでほしいって話をしに行くんだ。俺たちはそういうこと知ってるんですよって。監督に伝えに行くんだ」
龍太は、直談判ならば一緒に乗り込みたいと思った。一方的に決めつけるのではなく、監督の言い分もきくのがフェアだ。
「わかった。監督と直接話をするなら、俺も行く」
龍太は即答した。
だから四人は今、監督の執務室に向かっている。
大事な試合の前夜に。
このことは、ほかの部員には内緒にしてあった。
明日の試合に出るメンバーを動揺させてはならない。彼らには精一杯実力を発揮してもらわなければならないのだから。
――だから俺たちがやるしかない。
その一念で四人は結束していた。
もし、明日の試合に負ければ、これで今年度の活動はおしまいになってしまう。それまでにこの疑惑を解決しておきたい。後輩たちに問題を残していきたくない。試合に出られない三年が、後輩たちのために残してやれることといえばこのくらいだ。
クラブハウスの中に入り、廊下を歩いた。土埃の殺伐とした匂いがする。サッカー部の部室の前を通過した。
龍太は、ふとサッカー部の盗難騒ぎを思い出した。今年の春からサッカー部で、部員の私物の盗難が相次ぎ、ちょっとした騒ぎになったのだ。生徒が勝手に犯人捜しをはじめたり、親が学校に押しかけてきたりする騒動になった。部内の雰囲気は悪くなり、とうとう試合をボイコットする選手や途中退部者を出してしまった。
ラグビー部も同じようになってはならない、と龍太は心に誓った。
チームを不和に導く疑惑の芽は、早いうちに摘んでおくべきだ。
これでたとえ監督に疎まれることになったとしても、メンバーを外れた自分たちに、もはや失うものはなにもない。
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