雲外蒼天

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「本当なら、チームメイトの苦境を正直にお前たちに話して、どうどうと寄付を募ればよかったのかもしれない。しかし、あの時はサッカー部の盗難事件の真っ最中だったからな。ラグビー部はサッカー部とクラブハウスを共有しているし、経済的に困窮していると周囲に知られたら、今度は相川が疑われるおそれもあった。だからお前たちには詳しい事情を伏せて、後援会の会員のみに、『経済的に苦しい選手を援助してほしい』と手紙を送った。その取りまとめをしてくれたのが副会長の赤井さんで、後日、相川のために振り込まれた寄付金を持ってきてくれたんだ」  そのお金はこの夏の合宿から、すでに相川のために使われていたのだった。 「寄付金の使い道については、詳しい明細書と報告書を作成して、援助してくれたOBに渡している」  監督はデスク横の引き出しから、クリアファイルを取り出すと、「お前たちも見るか?」と四人に差し出した。  はーっ、と四人は一斉にため息をつき、空気の抜けた風船のように首を垂れた。龍太も、安堵とともに背もたれに体をおしつけた。 「だったら最初からそう説明してくださいよー」  酒井が泣きそうな顔で抗議した。 「俺ら、めっちゃ悩んだじゃないですか」  その言葉に、今度は監督のほうが肩を落とし、椅子の上で巨体を丸めて小さくなった。 「……難しかった。うちの部には、相川以外にだって、経済的に苦しくて部費を負担に感じているご家庭もあるだろうし。相川だけを特別扱いしていいのか。それで全ての保護者の理解を得られるのか。新米監督の俺には正しい答えがわからなかった。だから――秘密にしてしまったんだ。それが相川にとってもいいことだと思っていた」  そして顔を上げて、弱々しくため息をついた。 「でも、ダメだったなあ。隠し事なんてうまくいかないな。君たちを不安にさせてしまった」  こんなふうに自分を責める監督の姿を、龍太は初めて目にした。  監督は自嘲のような笑みをうかべて、机上にある自分の携帯を指さした。 「さっき電話をしたのは相川本人なんだ。君たちに真実を話していいかって確認したんだよ」 「相川はなんて?」 「『監督、まだみんなに話してなかったんすか』って。けろりとしていわれたよ」 「なんだよ、相川は俺らが事情を全部知ってて黙ってると思ってたわけ?」  神田が苦笑した。 「いろいろと行きちがってるなあ……」 「ほんとに、不器用な監督ですまないな」  監督にぺこりと頭を下げられ、四人は落ち着かなく視線をさまよわせた。  顔を上げた監督は、龍太たちを見てまぶしげに目を細めた。 「ただ、こうしてまっすぐに疑問をぶつけてくれて嬉しいよ。直接乗り込んで話し合おうって、君らに思ってもらえるくらいには、俺のことを信頼してくれていたんだな」  監督の顔に温かみのある微笑みがひろがった。
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