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「何だ、親に逆らう気か?生意気なんだよ!」
私がそろそろ寝ようかと布団に入った途端、隣室から怒声が聞こえてきた。
築数十年が経っている、このアパートは、壁もかなり薄いようで、隣室の声もかなり響いてくるのだ。外向きでは仲の良さそうな親子に見えても、家の中では子どもが虐げられていることを私は知っている。
「今日も喧嘩してるのか……。親子なんだから仲良くすればいいのに……。」
私は、そう静かに呟いてから掛布団の下に潜り込み、少しでも騒々しい音源から遠ざかろうとしたが、なかなか終わる気配がない。
「いい加減にしろ!何度言えば分かるんだよ!」
こういった調子の親の怒声がしばらく続いた後、今度は物が壁にぶつかる音がし始めた。これも、そんなに珍しいことではない。
「せめて、こっち側に投げないでよ……。明日も早いのにな……。」時計を見ると、時刻は11時を超えていた。
少しでも早く眠りたかった私は、サイドテーブルにある耳栓に手を伸ばす。耳栓をしながら眠るのは好きではないのだが、あまりに隣室がうるさい時に備えて買っておいたものだ。
私が仕方なく、片方の耳栓を付けた瞬間、子どもの奇声とともに、何かがぶつかる音が聞こえてきた。今までに聞いたことのない大きな音であり、こちらの部屋にまで衝撃が伝わってきた。
なお子どもは何かを叫び続けているが、それから大人の声は一切聞こえなくなった。
その直後、私の部屋にドタバタと足音が近付いてきた。すぐに扉が開かれる。
「お母さん、どうしよう。お父さんが動かなくなった。」
そう言う娘に、私は、夫に受けた痛々しい打撲痕をさすりながら、こう返答した。
「今日はもう遅いし、様子を見て、明日にでも救急車を呼びましょうか。」
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