12月 君に贈る火星の

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12月 君に贈る火星の

 田中さんは、火星に行くのが夢だった。  一度は宇宙飛行士を目指していたが、適性が足りずに見事に挫折した。少々時間にルーズで、寄り道をしがちなところが悪かったのかも知れない。  一般の人も宇宙旅行が出来る未来が来たら、絶対火星に行くんだ、と奥さんにも度々話していた。  そんな田中さんが病に倒れた。  奥さんは仕事が忙しく、幼い子供の世話もしなければならないのでなかなか見舞いには行けない。田中さんと奥さんはSNSを通じてよく会話をしていた。  しかし医師の治療も空しく、田中さんは亡くなってしまった。奥さんは悲しみを堪えながら、葬儀の準備にいそしんでいた。  そんな時。  ピコ、と奥さんのスマホが鳴った。SNSの新着通知だ。こんな時に誰だろう、と見てみると、旦那さんのアカウントからだった。 『やった! 俺、ついに火星に来たぞ!』  続いて全体的に赤茶けた岩場の写真。  そして。 『これが、最後に君に贈る火星の』  そこでメッセージは終わっていた。  調べたところ、メッセージは確かに田中さんのスマホから発信されたものだった。特にスマホがハッキングされたり、アカウントが乗っ取られた形跡はなかった。  奥さんは言う。 「きっとあの人、あの世に行く前にちょっと火星に寄り道しちゃったんですね」  奥さんは、そのメッセージを今も大事に保存している。
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