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3月 人待ち顔のジュリエット
斗或のジュリエット。
もちろん、あだ名だ。
彼女はこの街一番の資産家の娘だ。そんなお嬢様がどうしてそんな呼ばれ方をしているかというと、彼女はずっとロミオを待っているからだ。
始まりは学生時代のことだという。文化祭のダンスパーティーの場でたまたま一緒に踊ることになった、その相手がロミオだった。
手を取った時、彼女は雷に打たれたように感じたという。「この人が私の運命の相手だ」と。二人はそのまま名乗ることもなく、ダンスパーティーが終わるまで一緒に踊り続け、そのまま別れた。
その時から、彼女はその人を待っている。運命の相手だから、きっとまた巡り合える筈だと信じて。
両親は人を雇ってその人物を探そうとしたが、娘はそれを断った。噂を聞いて名乗り出た者も何人かいたが、全て拒否された。
彼女はただ待つだけだ。今に至るまで。その間彼女は実家の事業を受け継いで業績を伸ばし、資産を運用して利益を増やしている。ビジネス方面の才能があったようだ。
自分の才能を最大限に活かす為には、彼女はジュリエットになってロミオを待つしかなかったのかも知れない。
「次にあの人に会うのは、あの世かしらね」
と、彼女は笑う。
彼女は、今年90歳になる。
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