相葉の証言

1/3
7人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ

相葉の証言

 聖美と再会したのは2年半前、まだ新型コロナウイルスの話題すら出ていなかった頃のことである。聖美は新人の部下として同じ部署に配属されたのだ。前の会社を退職して色々なところに面接に行ったがうまくいかず、私が勤める会社でようやく採用が決まり、長かった就職活動に終止符を打てた形だった。得意先に一緒にあいさつ回りをしたり問題が起こった時に一緒にトラブルシューティングに奔走したりしているうちに仲はどんどん深まっていき、聖美が入社して半年になる秋ごろから交際へと発展した。交際の内容といえばカラオケに行ってお互いに大好きなB‘zの曲を歌いまくったり、連休を利用してちょっとした遠出をしたりというありふれたもの。コロナ禍に入ってからはなかなかお出かけも難しくはなったが、B‘zの無観客ライブを聖美の家で一緒に見たり一緒に映画を見たりと二人だけの有意義な時間を過ごしていた。聖美が飼っていたミニチュアダックスフントのリンもよく私に懐いてくれ、家族の一員として認めてくれているようである。 「ねぇ、将来子供は何人ほしい?」 「一緒に住むならリンちゃんも一緒に住めるところがいいな」 「もっと先になると思うけど、こんなおうち買いたいよね」 「私も結婚したらもっと料理の腕に磨きをかけるね」  聖美は早い段階から結婚について意識していたらしく、よくこんな質問を私に投げかけていた。かくいう私もしっかり者で誠実で、そしてそばにいると精神的な支えになってくれる聖美以外に将来のパートナーはあり得ないと思うようになっていた。  プロポーズをしたのは三か月前。聖美の28歳の誕生日のことだった。行きつけのバーで指輪の入った箱を渡すと、聖美はコクリと頷いてくれた。いつも積極的に将来の話をしてきた聖美が、この日だけは少し恥ずかしそうに、無言で頷いたのだ。私からのプロポーズを心から喜んでくれているのがその姿からだけでもわかった。その聖美が結婚詐欺師だと言われても、到底承服できない。そんな私の姿を知ってか知らずか、相葉さんが突如口を開いた。 「ねぇ、将来子供は何人ほしい?」  相葉さんの言葉を前に、私の耳がピクンと動いた。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!