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真相
リンは何とか一命をとりとめ、入院費についてもめどをつけることができた。獣医の見立てによると、原因は食中毒。散歩の途中でおかしなものを食べてしまったためにリンが体調を崩したという診断だった。ひととおりの手続きを終えて聖美との話もひととおり決着がついたところで、私はもらっていた手書きのメモをポケットから取り出した。
「もしもし。先ほどの件でもう一度会ってお話をと思いまして……今晩7時ぐらいとかにさっきの喫茶店で、いかがですか?」
「はい。構いませんよ」
電話越しの相葉さんはふたつ返事でそう告げてきた。
◆◇◆
夜の喫茶店は人もまばらだ。私は先に席へと座り、相場さんの到着を待っていた。5分も経たないうちに入り口の木製のドアが開かれ、ベルが鳴った。
「お待たせしてすみません」
「アイスコーヒーで構いませんか?今回は私が出しますので」
「え?いいんですか?」
相葉さんがそう尋ねたところで、女性の従業員がテーブルの横を通りかかった。
「はい。今回は私がお呼び立てしたので。すみません。アイスコーヒー3つお願いします」
私がそう注文すると、従業員は素早くそれをメモし、カウンターの奥へと入っていった。
「3つということは、もう1人どなたか来られるんですか?」
「はい。古くからの友人が来てくれることになっています。信用のおける友人ですので、できれば一緒に話を聞いてもらおうと思いまして」
「そうですか……確かに婚約を破棄する破棄しないとなったら、一大事ですからね」
相葉さんがそう相槌を打ったところで、再び入口のドアが開いた。
「おぅ!透。待たせたな」
入ってきたのは昨日の夜、私に浴びるほど酒を飲ませた幸人だった。
「ここ、いいですか?」
幸人はそう告げ、相葉さんの隣に座った。私と幸人がアクリル板越しに向かい合い、幸人の隣、壁側の席に相葉さんが移動した形である。幸人が荷物をテーブル下のかごに入れたところで、アイスコーヒーが3つ運ばれてきた。相葉さんがグラスを手に取ってアイスコーヒーを一口のどに流し込むのを見届けたところで、私が口を開いた。
「悪いな、非番なのに来てもらっちゃって」
私が幸人にねぎらいの言葉をかけた瞬間、ほんの少し相葉さんの顔がひきつった。
「え?非番?」
「あ、言ってませんでしたね。彼、県警本部に勤めているんですよ」
「あ、申し遅れました。県警本部の志賀幸人と申します」
「そ、そうですか……」
幸人が提示した警察手帳を前に、相葉さんは表情を曇らせた。
「それでね、だいぶご心配していただいて申し訳ないんですが、今回の聖美との結婚は、予定通り行おうと思っています」
私はできる限り笑顔をつくりながら、しかしはっきりと相葉さんに告げた。
「そうですか。私としては詐欺の被害者をこれ以上増やしたくなかったのですが、水無月さんの意志がそこまで強いのであれば致し方ありません。それでは私はこれで」
相葉さんがそう言って席を立とうとした瞬間、幸人が先に立ち上がった。
「おっと、話はまだ終わっていません。もう少し、相葉さんにはお話を伺いたくてですね。特に、コレとコレについて」
幸人はそう言うと、密封された2つのビニール袋を取り出した。1つ目の袋には小型の機械が、そしてもう1つの袋には食べかけのドッグフードが入っていた。相葉の顔から一気に血の気が引いた。
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