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結婚式前日の来客
昨日は久々に浴びるほどの酒を飲んだ。一緒に酒席を共にしたのは中学生のときの同級生達だった。結婚式を直前に控え私・水無月透の前祝いの会を盛大に行ってくれたのだ。
「いやぁ、でもビックリしちゃったよ。学年一のプリンセス・聖美ちゃんを透が射止めるなんてなぁ」
クダを巻きながら親友で今県警本部に勤めている志賀幸人が私にそう絡んできたが、悪い気はしない。
「さぁ、飲め!」
私は勧められるがままにビールのジョッキ、焼酎のグラス、冷酒の入った徳利をどんどん開けていった。明日は土曜日で休日、そしてあさってが晴れて聖美との結婚式だ。
◆◇◆
「ううううう……」
久々の大酒は堪える。私は頭が痛いのを抱えながらベッドから起き上がった。まだ梅雨入り前ということもあってカーテンから差し込む日差しは眩しい。時刻はすでに午前十時を回っていた。
「プルルルル……プルルルル…………」
インターフォンが私を呼ぶ。引っ越し用の段ボール箱がそこらじゅうに散乱する中で、私は受話器の元へと向かった。画面にはスーツ姿の男性が映し出されていた。
「はい」
「水無月透様のお宅ですよね?」
「私、相葉牧人と申します。明日ご結婚なさる吉永聖美さんのことで、どうしても話をしておきたいことがありまして。少しお時間を頂けないでしょうか?」
真剣な面持ちがモニター越しからも伝わってくる。私は辺りを一通り見渡した後、相葉に告げた。
「家の中が今引っ越し準備で散らかっているので、外ででしたらお会いできますが」
「かしこまりました」
「では支度をしますので、玄関でしばらくお待ち下さい」
私はエントランスフロアで待つ相葉にそう告げ、急いで身支度を整えた。
◆◇◆
「お待たせしました。ではいきましょう」
自動ドアから一歩外へと出た私がそう告げると、相葉は私に軽く会釈をした。相葉を連れて歩いて2分。木製のドアを開いたところでコーヒーを焙煎したビターな香りが漂ってきた。
「この場は私が持ちますので。アイスコーヒーでいいですか?」
相葉がそう尋ねてくる。
「いや、それは悪いです」
私はやんわりと断ろうとしたが、相葉は首を横に振った。
「貴重なお時間を頂いているわけですから、ここは私がお出しします」
相葉はそう言い、伏せられた伝票のバインダーを手元へと手繰り寄せた。
「お待たせしました」
店員がそう告げ、アイスコーヒーの入ったグラスをテーブルに置いた。
「ところで、聖美の件で話があるとのことでしたが」
私がそう切り出すと、相葉はストローから口を離してまっすぐ私のことを見据えた。
「聖美さんとの結婚、おやめになった方がいいかと思います」
私のグラスの中で、氷がカランと音を立てた。
「そんなこと、いきなり言われましても……」
「確かにびっくりしますよね。私ももう少し早くお伝えしないといけないと思ったのですが、水無月さんを捜すのに手間取りまして。でもこれだけはどうしてもお伝えしないといけないと思っていたので」
「相葉さんはどうしてそこまでして私と聖美の結婚をとりやめさせたいと?」
私がそう問いかけたところで、相葉さんは意を決したように口を開いた。
「私は、聖美さんから結婚詐欺に遭った被害者です。二度と、同じような被害者を出したくないんです」
「結婚詐欺、ですか?」
そんなわけはないだろう――私が耳を疑う一方、相葉さんの視線はいたって真剣そのものだった。
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