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〜朔弥side〜
彼女の美月が双子の妹を紹介してくれた。
名前は「結月」。
2人はとてもそっくりで、声も聞き間違えるほどだった。
時々会う結月は、美月とは違う魅力を持っていた。美しい凛とした美月とは違い、可愛らしくて構いたくなる様な愛らしさを持つ結月。顔は同じなのに、何故か結月に心を奪われた。
でも、美月は僕を本気で愛してくれていた。
だから、余計に辛かった。
会う度に膨らんでいく結月への想い。
夜空に浮かぶ月みたいに満ちていく「好き」の気持ち。
望月が欠けていくみたいに、簡単に気持ちを消せたらいいのに。
ある日、美月に月型のイヤリングをあげた。
彼女はすごく喜んでくれた。
結月を諦めようと思っていたのに、彼女は僕の事を怪しんだ。
「最近、やけに優しくない? 好きな人でもできたんじゃないの?」
「えぇっ?!」
「ずっと前から寂しかったの。一緒にいても心は違うところにあるんじゃないかって思ってた。やっぱり、好きな人ができたんだね?」
儚げな瞳をした美月は、僕のマンションを勢いよく飛び出した。僕は彼女を追いかける事が出来なかったんだ。
図星だったから。
美月を傷つけた。彼女を愛そうとした。でも、彼女を見つめる度に思い出すのは結月の事で。彼女を愛する度に深く愛するのは……
結月だったんだ。
僕は最低な男だ。
だから、姿を消した美月が再び僕の前に現れた時、罪滅ぼしの為にまた付き合った。
今度こそ愛そうと思った。
僕は彼女を愛せた。
それは何故か?
僕は気付いたんだ。
結月だったからだ。
なぜ結月が美月のふりをしているのか?
彼女からの愛を感じる度に、同時に感じたのは「殺意」だ。
もしかしたら、美月は自殺をしたのでは?
だから、結月は僕に殺意を?
でも、結月を本気で愛してしまった僕には、そんな事も聞けず、ただ、彼女と一緒に居たかっただけだった。
「十三夜に月見をしよ?」
「うん」
何となく、その夜に殺されるのでは? と感づいていた。月が綺麗な夜に。
でも、それが結月の望みなら仕方がない。
僕は覚悟を決めて屋上で彼女を待っていた。
扉が開くと、月光に照らされた愛しい笑顔。
今夜で最後だと思うと涙が出そうだったが、僕は必死に堪えた。
「ごめん、朔弥。お団子買ってきたよ。さぁ、月見しよっか?」
僕は結月を抱きしめる。最後のぬくもりは温かいが、ひんやりした冷酷な殺意も感じる。
でも、離したくなかった。
「朔弥、お団子食べようよ。私、お腹すいちゃって」
「あぁ、食べよう」
屋上の壁にもたれながら、僕たちは月夜の下、真っ白なお団子を口に頬張る。
結月との最後の夜。赤い月が不気味に浮かぶ。
「十五夜は月見しなかったよね? 十五夜と十三夜の片方しか月見をしないと、縁起が悪い事が起きるんだって」
そう呟く彼女を見ると、白い小さな満月がポロリ、と手元から落ちる。それと同時に、膝から崩れるように倒れる身体。
「……美月?」
睡眠薬か?
僕は彼女に腕を伸ばす。彼女はその腕を掴んで屋上の隅まで引きずっていく。
ズリ
ズリ……
「私は双子の妹の結月よ。あんたは姉の美月を捨てたわよね? 好きな女ができたなんて言って。美月は苦しんだ挙句、入水自殺をしたわ。
1人で冷たい水の中、苦しんで悲しんで死んでいったのよ!!だから、私は美月のふりしてあなたに近づいたの。復讐するために。あんたはバカだから、また私と付き合う事にしたわよね。まさか、殺されるなんて思ってもみなかったでしょうね?」
やっぱり、美月は自殺をしたのか。
ごめん、美月……
僕が全て悪いんだ。
ごめん、結月……
僕が憎いよな? 憎くて仕方ないよな?
「そっか、結月か……だから」
結月だから、僕は君を愛していたんだよ。
結月だから、ずっと一緒にいたいって思ったんだよ。
欠けた望月の下、彼女の瞳に映る殺意。
段々と閉じていく瞼。
君の美しい顔をずっと見ていたいのにな。
ふらふらする僕の身体を、結月は月夜へ向かって突き落とす。
「結月がずっと好きだった」
最後の言葉は、君に届いただろうか?
届かなくてもいい。
きっと、君を惑わすだろうから。
僕に向けられた感情が、殺意だけだったらいいな。
そしたら、君はきっと、この先も生きていけるだろうから。
結月、生きて欲しい。
お願いだから生きて。
僕の身体は、
月夜が浮かぶ
赤褐色に溶けて消えた。
〈完〉
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