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あなたが手伝ってくれるからデュークも俺たちもすぐにディナーを始められると笑うリアムの言葉に素直に頷けない慶一朗は、俺がしている事などほんの些細な事だと返すと、そんな慶一朗の心の動きを完全に読み切っているリアムが髭の下の口の端を持ち上げる。
「その些細な事が大切なんだ」
だからそれをしてくれたあなたと俺たちの親友になってくれた記念日を無事に迎えられた祝いにと、グラスにワインを注ぎながら笑うリアムの言葉を今度は素直に受け入れた慶一朗が笑みを浮かべて頷き、早く合図をくれ、早く食べたいと見上げてくるデュークの耳の付け根を少し強めに撫でる。
「どうぞ召し上がれ」
エプロンを外したリアムがスツールに座り、左の慶一朗、右のデュークに笑顔を向けた後、どうぞと両手を向けると、その合図を受け取った左右からドイツ語と犬語で礼を言われる。
食事に関する決まり事が二人の間には幾つか存在するが、その日のメインディッシュの一口目を互いに食べさせ合うという感心すべきか呆れるべきか悩ましい行為を今日も当然の顔で行い、きめの細かい泡が立ち上るグラスにも口を付ける。
「美味いな、このワイン」
「うん、もしかすると掘り出し物を見つけたのかも知れないな」
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