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065:帰り道 ※
煌めくシャンデリアに着飾った男女が思い思いの相手と楽しそうに談笑する声が、生演奏のピアノの音に乗ってパーティー会場を巡っていく。
男女が手にしているグラスにはカクテルやシャンパン、有名ワイナリーが自信を持って送り出すワインやビールなどがあり、アルコールで話が弾む中、場の光景に圧倒されているのか、それとも元々好きではないからか、壁の花を決め込んでビールをあまり美味そうに感じていない顔で飲んでいる長身の体格の良い青年がいて、時折そんな彼が不憫なのかそれとも興味を引かれるからか、グラスを片手に女性が近寄って声を掛けるが、ピアノ曲が変わる時を狙ったように女性たちが離れてしまっていた。
一人で壁の花をしながら目の前に広がる別世界のような光景を眺めていると、その場にいる男女の関係が手に取るように理解出来たり、ブルネットを丁寧に整えてタイもビシッと決めた彼が狙っている女性は、そんな彼とは正反対なブロンドにブルーアイの男を見つめていたりと、ほんのわずかの観察時間でも男女の関係が見えて、壁の花で一人寂しくしていると周囲に思われているだろうが、自らは退屈などしていないと内心苦笑していた。
そんな青年に、ピアノの曲調が変わった時、グラスを両手に持った端正な顔の男が近づいて来て、彼に気付いた青年がこの時初めての様に顔を綻ばせ、ヘイゼルの双眸にあからさまに安堵の色を浮かべて近付いてきた彼の名を呼ぶ。
「ケイ」
「・・・・・・壁の花にしては随分と目立つな、リアム」
片手に飲みかけのワイングラス、片手には炭酸ガス入りのミネラルウォーターを運んで来たのは、壁の花を決め込んでいた青年、リアムの同行者であり恋人でもある慶一朗だった。
ミネラルウォーターのグラスを受け取りながら肩を竦め、ビールグラスを近くにあったテーブルに置いたリアムは、隣に並んで壁に背中を預ける恋人の顔を見下ろし、人と話すのに疲れたかと問いかけると、色素の薄い双眸が茶目っ気たっぷりに細められ、疲れたからお前に癒されようと思っていると答えられて目を丸くする。
「院長や理事長の相手は疲れるか?」
「────隙があれば美人を上の部屋に連れ込もうとするジジイと話をしていて疲れないと思うか?」
ワイングラスを傾けつつ慶一朗が皮肉をふんだんに含めた声で呟くのは、自分達二人が勤務している病院の所謂お偉いさん達のこの後の行動に対する嫌悪で、さっきなどは別の病院の理事長とやらが上に部屋を取っているとメモを渡して来たと、流石に不機嫌さを隠さないで呟く慶一朗をリアムが気の毒そうに見下ろすが、口に出して何かを言う訳ではなかった。
ただ、少し離れた場所からじっと見つめてくる同年代の男の視線に気付き、あの男かと小さく呟くと、慶一朗が親しい人達にしか見せない顔で舌打ちをする。
「Ja」
「・・・・・・確かに、気に食わないな」
ピアノの曲が流れる中、離れているから問題はないと気付いた慶一朗が短くドイツ語で返事をすると、リアムも同じ皮肉を込めたドイツ語で返す。
「お前を気に入ったって?」
「らしい。自分はどんな男女でも手に入れられると思ってるんだろうな」
慶一朗の皮肉を通り越した嫌悪感の滲む声にリアムが肩を竦めた後、髪にゴミが付いていると少し大きめの声で呟きながら慶一朗の姿を隠す様に前に立ち、見えないゴミを取る様に顔を寄せて掠めるだけのキスを頬にする。
「ゴミなんか着けていたらせっかくの美人が台無しだ」
「・・・・・・テラスに出るぞ、リアム」
朗らかに笑う恋人に一瞬なんとも言えない顔になった慶一朗だったが、頭を窓の方へと傾げて行き先を伝えると、リアムが自分達の近くを通りかかったスタッフがトレイに載せているワイングラスとミネラルウォーターのグラスを取り替え、踵を返す慶一朗を追いかける様にテラスに出る窓を開けて外に出る。
眼下に見えるのは開発が進んで記憶の中と少しずつ変化をしていく町並みで、夜風に吹かれながら気持ち良さそうに慶一朗が背中を手摺に預けて頭を仰け反らせる。
「・・・気持ち良いな」
「そうか、それは良かった」
月光と周囲のビルの明かりに照らされる恋人の白い喉に一瞬目を奪われたリアムだったが、ここがどこであるかを忘れるほど酔っておらずにワイングラスに口をつけると、慶一朗の目が悪戯っ気を込めた様に細められ、楽しそうな笑い声が小さく流れ出す。
「どうした?」
「────Kleider machen Leute.か」
「・・・服に着せられていて悪かったな」
どうせ何処かの誰かさんの様にフォーマルなど着慣れていないと、流石に機嫌を損ねた様に口の端を下げたリアムに慶一朗が驚いた様に目を丸くするが、手摺に置いた大きな手に手を重ね、お前の価値はたかが着る服一つで左右されるほど安くはないとリアムにしか見せない顔で笑うと、下がっていた口の端が少しだけ上を向く。
「服で左右される様な目が悪い奴らの言葉なんか聞くな」
「・・・この服、似合っているか?」
今夜のパーティーの為に用意したフォーマルだが、普段着慣れていないからどうにも慣れない、本当に似合っているのかと何度目になるのか分からない質問をしたリアムに、慶一朗が世界最高のイケメンが目の前にいるとうっとりとした顔で答え、その言葉にリアムも納得したのか、口の端を完全に上に向ける。
そんな恋人同士の密やかな会話を楽しんでいる二人だったが、外は気持ちがいいなと笑いながら近寄って来た男がいて、慶一朗が瞬間的に表情を切り替え、リアムも仕事中と同じ顔で頷く。
「ミスター・ローズ、お酒のペースが早かったのでは?」
慶一朗がクスクスと笑みを浮かべて声をかけて来た男の名を呼ぶと、ヘンリーと呼んでくれと言っているのにと不満そうな声が流れ出し、リアムが二人に見えない様に拳を腿の横で握りしめる。
「────私よりも彼にそう呼んでもらった方がミスターの為になりますよ」
ほら、貴方の言動が気になる様で、先程からずっとこちらを見ていますと、室内から強い視線を送ってくる男に視線を向けた後、満更でもない顔を必死に取り繕おうとする男に営業以外の意味を持たない笑みを見せ、私は彼と話があるのでそろそろ失礼しますとリアムへと顔を振り向ける。
「もう帰るのか?」
「ええ。────こう見えても、私も彼も仕事熱心なんです」
今、自分達が執刀する可能性の高い手術の話をしていたのです、ワーカホリックな二人なのですと笑って男にこれ以上口を挟ませない強引さを笑顔に混ぜて頷いた慶一朗は、未練たらたらな顔の男の背中をポンと親しげに叩いてどうぞと室内へと追いやると、こちらを睨む様に見ていた男の視線が和らいでよそへと向けられる。
ローズと呼んだ男が完全に室内へと戻って他の人達と話し始めたのを確認した慶一朗が小さく溜息を吐いたかと思うと、リアムの隣に再度並んで背中を手摺に預けるが、恋人の体で見えない様に気を付けつつ大きな手へと己の手を重ねると、無言で一つ握りしめる。
「・・・そろそろ帰るか?」
「そうだな・・・理事長には挨拶をしてくるか」
二人が無言で握った手はピアノを弾いていた人が休憩を取った短い間だけで、次の曲が始まる頃には離れていて、手が離れると同時にそれだけでは物足りないという強い思いが腹の底から頭を擡げた為、リアムが慶一朗のスラックスのポケットに手を突っ込み、日本に暮らす双子の兄、総一朗がプレゼントした電車の小さな模型がぶら下げている車のキーを取り出す。
「・・・駐車場で待っていてくれ」
理事長達には俺から挨拶をしてくると手を挙げて室内に戻る慶一朗の背中を見送ったリアムは、己の上司でもある理事長達に笑顔で挨拶をし、露骨に残念そうな顔になる理事長達に内心で舌を出すと、誰に咎められる事もなくパーティー会場を大股に出て行き、地下の駐車場へと向かうエレベーターに乗り込む。
今日のパーティーなどはリアムは本当は苦手だったし今まで近寄ることもなかったが、何かと便利なこともあると慶一朗に諭されて一緒に顔を出しただけだった。
だから何か有益な情報や人間関係が得られた訳ではなく、得られたものと言えば己の恋人に色目を使い、あわよくば関係を持ちたいという欲に塗れた人達の醜悪な顔だけだった。
腹が立つと思わずエレベーターの壁を殴りそうになるのを堪え、駐車場に着いたと開くドアから降り立ち、赤いスポーツタイプのセダンの前に向かう。
この車はリアムが慶一朗と出会った時からずっと乗っている恋人の愛車で、酒を飲みすぎたりした時にはリアムが良く運転をしていた。
その為今日も運転席に乗り込み、エンジンを掛けて慶一朗がやってくるのを待っていると、ラジオから懐かしい曲が流れ出す。
その曲が終わり、夜に合わせてしっとりとした声で曲の解説やリスナーからのメールの紹介をするDJの声に耳を傾けていると、運転席の窓がノックされる音が聞こえ、慌てて顔を窓へと向けると疲労の滲んだ顔で小さく笑う慶一朗がいて、慌ててドアを開けると、待たせたと溜息交じりに呟かれる。
「大丈夫だ」
懐かしい曲を聴いていたと笑いながら慶一朗より先に助手席側に回り込んだリアムは、当たり前の顔でドアを開けて慶一朗が助手席に座るのを待ち、そっとドアを閉めて運転席へと戻る。
「・・・いつも言っているけど、わざわざドアを開ける必要はないぞ、リアム」
「俺がやりたいだけだ」
「・・・そうか」
ならお前の好きにしろと、運転席に乗り込んでくる恋人の優しさや時には甘さを素直に受け入れるにはまだまだ抵抗を感じる顔で慶一朗が申し訳なさそうに呟くが、自分がしたいことをしているだけだと返され、ならば好きにしろと半ば諦めの境地で溜息を吐く。
意中の人をエスコートする意味なら理解できるそれだが、己がそれを受けるには相応しくないという思いがリアムと付き合い出した当初から慶一朗の中に存在していて、何かの折に顔を出すことがあったのだが、今の様にやりたいからやっていると言われてしまえばどんな言葉も返すことが出来ず、ただ車を出発させようとするリアムの頬を指の背で撫でる事しか出来なかった。
慶一朗が見せるその不器用さだけでも十分だった為、今も嬉しそうな表情を浮かべてしまい、慶一朗に気持ち悪い顔をするなと言い放たれてがっくりと肩を落としてしまう。
「────俺の恋人は本当に素直じゃないし口が悪い」
「・・・そんな俺が好きなんだろう?」
盛大に嘆くフリをしつつ車を駐車場から夜の街へと走らせるリアムに窓枠に肘をつきつつ楽しそうに呟いた慶一朗は、赤信号で車が停まった瞬間、シフトレバーの載せられている大きな手に手を重ね、顔を向ける事なく告白する。
「安心しろ、こんな俺に付き合ってくれるお前が────」
誰よりも、好きだと、おそらく慶一朗の中で有りっ丈の勇気を振り絞った結果の言葉にリアムの目が限界まで見開かれるが、信号が変わったとにべもない声で指摘されて急発進気味に車を走らせる。
ホテルでの仕事絡みのパーティーは全く面白くもないし収穫もないものだったが、その帰り道でまさか己の感情を口に出すことが超絶苦手な恋人から好きという告白が聞けるとは思ってもいなかったリアムは、ああ、神様は頑張っている人にはこうしてご褒美をくれるのだと大袈裟に呟き、何だそれはと恋人に呆れられてしまう。
「・・・お前からの告白だぞ、嬉しいに決まってる」
「そんなに嬉しいか?」
「そうだなぁ・・・さっきの嫌なあの男のことなんか忘れてしまえるほど嬉しいな」
あのままあの場にいたとすれば、きっと俺は薔薇の花を見るたびに思い出して腹が立つだろうと力説してしまうリアムに慶一朗が呆気に取られるが、己に対しそこまで思ってくれることは満更でもない為、そうかと嬉しさが少しだけ滲んだ声で呟くが、どうすればリアムの様に素直に想いを伝えることが出来るだろうと考え、やはり言葉で伝えることは苦手だと己の短所に改めて気付いてしまい、情けないなと自嘲してしまう。
「どうした?」
「・・・・・・他の奴には舌が浮きそうな事でもいくらでも言えるのにな」
お前に対して好きと愛していると何故言えないんだろうなと、前髪をかきあげつつ自嘲を深めると、運転席から伸びてきた大きな手が頭にポンと載せられ、ついでとばかりにぐしゃぐしゃにセットした髪を乱してしまう。
「あ、おい!」
「どうせ家に帰るだけだ」
このまま自宅に戻るだけだからもう取り繕う必要などないだろうと、前を見たまま笑うリアムに返事の代わりに溜息を零した慶一朗だったが、酒の勢いを借りていつもよりは素直になっても良いかなと、ラジオに負けそうな小さな声で呟くと、それをしっかりと受け止めたリアムの手が優しく髪を撫でて離れて行く。
それがホテルのテラスで感じたものを思い出させ、助手席のシートを勢い良く倒して運転席に背中を向ける。
「ケイ?」
「────早く、家に帰りたい」
だから可能な限り飛ばせと、いつもとは逆の言葉を呟く背中をちらりと見やったリアムだったが、柔らかな髪の下に見える耳が真っ赤に染まっている事に気付き、最大限安全運転しつつ飛ばして帰ろうと、自宅までの小一時間を少しでも短くしようと笑うのだった。
自宅があるフラットの地下にあるガレージに車を停め、地下からリビングへと上がる階段を縺れる様に何とか登った二人は、帰宅した際に荷物を置いたり靴を脱いだりする為のソファに倒れ込み、どちらからともなく顔を寄せてキスをする。
互いに飲んでいたアルコールが程よく熱を煽った様で、角度を変えて何度も貪る様なキスを繰り返すと、少し落ち着いたらしく鼻の頭を触れ合わせながらガマンができない自分達を小さく笑う。
「────イイか?」
「・・・・・・いちいち聞かなくても良い」
その代わり、分かっているだろうけどと、今度は額と額を重ねて慶一朗が小さく笑みを浮かべつつ少しだけ時間をくれと告げると、了承の言葉の代わりに優しいキスが額、鼻の頭、頬の高い場所、そして唇へと降ってきて、くすぐったそうに首を竦める。
「・・・リアム、離せ」
いつまでもハグされていたら準備出来ないと、男女の関係に比べれば少しだけ手間のかかる自分達の関係の為に手を離せと苦笑する慶一朗だったが、タキシード姿はやはり似合うと、ソファに慶一朗の背中を再度沈めながらポツリと呟き、慶一朗が制止するよりも先にタイを解きジャケットを脱がせる為に手を背中へと回すと、本気ではない制止の声がリアムの頭上に降ってくる。
「待て、リアム!」
「・・・脱がせたい」
だからバスルームで脱ぐのではなく、ここで脱いでいけと見下ろされて絶句してしまった慶一朗は、文句をいうために口を開けるが、再びリアムにキスされてしまい、不満を飲み込んでしまう。
キスをしながらそんなに器用に動くのかと驚かれる大きな手でサスペンダーを外し、シャツのボタンも外してスラックスを脱がせると同時に下着もずらそうとすると、流石にそれに気付いた慶一朗が本気で抵抗する様にリアムの手首を掴む。
「────ダメ、だ」
「・・・ダメじゃない」
本気で嫌なら止めるが、本気とは思えないと、キスだけで息が上がっている慶一朗を見下ろしたリアムは、己の言葉に赤くした顔を背ける恋人の頬にキスをし、抵抗らしい抵抗がされない事を確信すると、スラックスを脱がし、下着の中に手を突っ込む。
「────!!」
大きな手にいきなり下着の中を蹂躙されて息を飲んだ慶一朗だったが、三度キスをされて言葉だけではなく思考回路も封じられ、下腹部に生まれる熱に身体を捩ろうとするものの、リアムの熱い手に動きも封じられてしまい、強く握られ扱かれて追い上げられてしまう。
自然と零れだす快感の声をリアムの口内に吐き出し、広い背中にしがみつく様に手を回し、濡れた音と快感に揺れる腰を恥ずかしいと思いつつキスから逃れる様に顔を振った慶一朗は、リアムの肩に額を押し当てて顔を隠し、切羽詰まった息を吐き出してしまう。
「────っア!」
リアムの手に快感の頂点へと追いやられ、肩で息をしてしまった慶一朗は、リアムの手に吐き出した事に羞恥を覚えて一瞬で顔を真っ赤にしてしまうが、己の掌で受け止めたそれをリアムがじっと見下ろしている事に気付き、酸欠の魚の様に口を開閉させてしまう。
「リアムっ!!」
そんなものをじっと見るなと叫ぶ慶一朗にニヤリと笑みを浮かべたリアムは、指先についたそれをペロリと舐めて恋人を絶句させる事に成功すると、大人しくなったのを良い事にソファから抱き上げてバスルームへと向かう。
「歩けるから降ろせ!」
「・・・お願いだ、二人きりの時はこうしていたい」
お前が一人でも歩けることなど当たり前の様に理解しているが、こうさせてくれと直前までの行為を忘れ去ったかの様な真剣な顔で告白されて目を丸くした慶一朗だったが、そのギャップがおかしいと吹き出してしまい、短くカットされているハニーブロンドの髪にキスをする。
「ダメか?」
「今日は許してやる」
でも普段はダメだと笑ってバスルームに降り立った慶一朗は、中途半端に着たままになっているシャツを脱ぎ、下着も躊躇なく脱ぎ捨てると、リアムにキスをしつつ今度は恋人の服を脱がし始める。
馬子にも衣装とホテルではからかったが、本当に良く似合っているジャケットを脱がせ、筋肉を覆い隠しているシャツのボタンを乱暴に外し、タイもぐいと抜き取ると、惚れてやまない分厚い胸板に小さな音を立ててキスをする。
スラックスの下で元気になりつつあるものに気付き、お楽しみはもう少し後だと艶然と笑みを浮かべると、リアムも珍しく同じ様な笑みを浮かべて慶一朗の顎を指先でなぞる。
「・・・水とビール」
「ああ」
リアムの胸の突起にもキスをした慶一朗が俯き加減に飲み物を用意しておいてくれと告げた事から、この後の時間と密度がどれほどのものになるのかを予想したリアムは、明日の休日は完全に潰れるがそれも構わないと胸中で呟き、嬉しそうに唇の端を持ち上げるのだった。
ベッドヘッドにクッションを立てかけて背中を預けていたリアムは、バスローブを引っ掛けただけの姿でバスルームから出てきた慶一朗に気付いて身体を起こすと、小さく首を傾げた慶一朗が手招きした為、何事だと思いつつベッドの端に腰を下ろすが、慶一朗がキスをした後その場に膝をついた為、何をするのかを察して腰を浮かせると、慶一朗の白くて綺麗な指が下着を一気に脱がし、形を変えつつあるリアムのものに目を細める。
二人が付き合う事になり初めて抱き合った夜、リアムのものを見た慶一朗が今まで付き合ってきた恋人達や大人の友達の中でも特別な大きさだと気付き、壊れるんじゃないかと己の体を思わず心配してしまったことは今では二人の間の笑い話になっていて、それを不意に思い出した慶一朗が小さく笑うと、リアムが何を思い出したんだと笑いながら問いかけつつ慶一朗の髪の中に手を差し入れる。
「今まで付き合ってきた人に大きさで文句を言われたことはないってお前が自慢したことを思い出した」
「・・・忘れて欲しいなぁ」
あの時は必死だったと笑うリアムを上目遣いで見た慶一朗だったが、誰が忘れるかと悪戯っ子の顔で口の端を持ち上げた後、大きく口を開けてリアムのものを咥え込む。
「────ん、・・・っ」
初めて口に咥えた時も苦しかったが、慣れた今でもやはり苦しいと思いつつ、喉の奥まで咥えこみ、ずるりと吐き出して舌先で己の唾液に濡れるものを舐めれば、気持ち良さそうな声が降ってくる。
今まで付き合ってきたのは女性ばかりで、男と付き合うのは己が初めてだったが、そんな恋人が女の様に柔らかな身体や受け入れる臓器を持たない身体の己の行為に気持ち良さを覚えてくれていることが嬉しくて、顎が疲労を訴えるまで咥え込んだり舐めたりしていると、もう良いと言いながら顎を撫でられ、ついでに口の端を伝い落ちる唾も指先で拭かれてしまう。
「もう、良いのか?」
「うん。────次は、俺だ」
見上げる慶一朗の頬を撫でて額にキスをしたリアムは、慶一朗の手を取って立ち上がらせると、目の前の薄い腹にキスをし、細い身体をベッドに沈ませる。
「・・・まだ、恥ずかしいな」
「まだ慣れないか?」
もう付き合い出して随分と経過するが、まだ恥ずかしいかと、以前に比べればマシになったものの、こうして抱き合う時には顔を見られることを極力避けようとする慶一朗を見下ろしたリアムは、どんな顔を見せられても嫌いになったり呆れたりしないのにと告げつつ頬にキスをし、頭を囲う様に両手をつくと、背中にそろりと手が回される。
「・・・リアム」
「ん?」
「────気持ちよくしてくれ」
さっきはただ熱を吐き出しただけだが、今からの時間は互いに気持ち良くなろうと囁かれ、勿論と返事をしつつ慶一朗にキスをしたリアムは、背中に回った手を握りたいとささやき返して希望を叶える様に手を握られると、嬉しそうに吐息を一つ慶一朗の薄い胸に落とし、ついでにキスも落としていくのだった。
「────ァ・・・っ、ん・・・っ」
悩ましげに寄せられる眉にキスをしたい衝動に駆られ、快感に震える肩を掴んで伏せていた身体を捻るように開かせると、奥を埋めるものが刺激したのか、色素の薄い双眸が見開かれる。
グッと肩で足を押さえつけるように伸びあがれば、苦痛にも似た声が流れ出し、それを宥めるように眉や頬にキスをすると、微かに震える手が頭を抱くように回され、快感に震える舌がリアムの唇を舐めていく。
「・・・どこで、そんなことを覚えたんだ?」
「・・・・・・さ、あ、どこ、だろうな・・・・・・っ!」
こちらを煽るキスをどこで覚えたと笑うリアムに慶一朗も精一杯の顔で笑い返すが、腰をぐいと押し付けられて頭が仰け反り、形を変えたものを大きな手で握られて息を飲む。
「ァあっ・・・ン、・・・っ!」
慶一朗の口から零れ落ちる、リアムしか聞くことの出来ない甘い声に煽られるように腰をぶつけ手を動かせば、慶一朗の白い手がシーツをきつく握りしめる。
限界が近いことを悟ったリアムだったが、まだまだこうして抱き合っていたいと強く不意に思い、慶一朗の耳に顔を寄せて思いを伝えると、さっきと同じように頭に手が回され、リアムの願いを叶えようとしてくれる。
どちらかに負担の大きい関係になってしまう自分達だが、こうして受け入れて許してくれる慶一朗に優しくしたい思いは当然ながらリアムの中にあったが、白い身体を快感に震わせながら受け入れてくれる姿を見れば、優しさよりも男の顔でただひたすらに抱きたい欲が強く湧き起こり、翌日に影響をしてしまうような抱き方をしてしまうのだ。
だが、今の様に抱きしめられてしまえばそれすらも許してくれているのだと気付き、欲と情の入り混じったキスをすると、慶一朗が限界まで身体を捻り、口の端を持ち上げて男前な笑みを浮かべる。
「・・・・・・リアム、来い」
その、己を喜ばせる命令に逆らえるはずもなく、またそのつもりもないリアムは、慶一朗をうつ伏せにして腰を抱え上げると、己の形に馴染んでいるそこにゆっくりと押し込み、シーツに零れ落ちる快感を堪える声に煽られる様に奥まで腰をぶつける。
「────っは、ん・・・っんん、・・・!」
ゆっくりと確実に奥まで入ってくるそれに慶一朗の顎が自然と上がり、前までならば堪えていた嬌声が流れ出す。
その変化も嬉しくて、ギリギリまで自身を抜き、驚く身体に一気に突き刺す様に突っ込むと、白い背中が撓み、仰け反った頭が腕の間に落ちる。
己の動きに合わせて零れ落ちる声にリアムが唇を舐めて小さく口笛を吹き、もっとと強請る思いから腰をぶつければ、願い通りに慶一朗の熱の籠った甘い声がシーツに落ちる。
抑えられない欲求から腰を抱いていた手で慶一朗のものを握ると、悲鳴じみた嬌声が高く上がり、同時に触るなと制止する為に肩越しに睨まれてしまう。
前と後ろ同時だとキツイかと目を細めるリアムに、気持ち良すぎて意識が吹っ飛びそうだと無意識に煽られ、吹っ飛んでも問題ない、安心しろと笑い返して手を動かせば、奥を埋めているリアムのものが締め付けられる。
「・・・・・・ぃ、や、だ、リアム・・・っ・・・!」
「先にイって良いぞ、ケイ」
頭がおかしくなると快感に霞む目で振り返る慶一朗のものを指の先で強く握ると息を飲む音が聞こえた後に身体がびくりと竦み、リアムの手の中に再度熱が吐き出される。
己の手で支えられている様にぐったりとする慶一朗の背中にキスをしたリアムだったが、まだまだ収まる筈がないと微苦笑し、ベッドヘッドに置いたビールを飲むと、それに気付いた慶一朗が俺もと呟いた為、中から抜け出して慶一朗の背中を支える様に抱き、ビールのボトルを手渡す。
ビールで喉の渇きを潤した慶一朗は、己を支えながら水を飲むリアムを見上げ、その頬に手を宛てがって顔を寄せてキスをする。
「ケイ?」
「────お前がイクまで付き合ってやる」
だから気にするなと笑う慶一朗に限界まで目を見開いたリアムだったが、情と欲を綯い交ぜにした笑みを顔中に浮かべると、慶一朗の手からボトルを取り上げ、口の端を伝い落ちるビールを舐める。
「ダンケ、ケイ」
そんなお前がやっぱり好きだと笑って告白したリアムは、同じ言葉ではないが同じ想いが込められている手が背中を優しく撫でた事が嬉しくて、ビールの味がする唇に唇を重ね、再度その背中をシーツに沈めるのだった。
完全に意識を飛ばしてしまった慶一朗の身体を抱きしめながら大きく欠伸をしたリアムは、久しぶりに遠慮せずに恋人と抱き合えたことが嬉しくて、また満足していた。
ここまで満足出来たのは久しぶりかもしれないと思いつつ、何がこんなにも慶一朗を煽ったのだろうかとうつらうつらしつつ考えるが、ホテルからの帰り道、車の中で顔をあまり見ることなく告白された言葉からだと気付くと、自然と笑みを浮かべてしまう。
己の様に素直に好きや愛していると言えない慶一朗だったが、その思いは言葉ではなく身体で、行動で伝えてくれていた為、言葉がないことに不満を覚えたりはしなかった。
周囲に職場関係の人たちがいる中でも隠しつつ手を繋いで苛立っていた己の心を鎮めてくれたことも、愛おしむ様に頬を撫でてくれたことも、言葉に出されない愛情表現であることをリアムはしっかりと理解していた。
だから、ホテルから自宅に向けて車を走らせていた時の告白が本当に嬉しかったし、つい今し方まで抱き合っていたが、本当に珍しく、快感に浮かされていたーと後で慶一朗が顔を真っ赤にして言い訳をする羽目に陥るー声と顔で、愛しているとドイツ語で囁かれ事も嬉しかった。
その嬉しい思いのまま細い身体を抱きしめると、小さな声が零れ落ちるが、己の方へと無意識に身体を寄せてくれ、今夜のことはなかなか忘れられないなぁと欠伸交じりにリアムが呟く。
「・・・・・・おやすみ、ケイ」
明日の休日は一日中ベッドの中で過ごしてもいいと小さく笑い、もう一度欠伸をしたリアムは、心身が得た深い満足の中眠りに落ちるのだった。
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