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弱点
「私を裏切るつもりか?」
「まさか」
長瀬の声は相変わらず軽かった。
「抑々がだよ、俺はお前のやっている不正を暴きに来たのだから、裏切りなんてものは存在しないんだよ」
怒りで頭の中が真っ白になった気がした。
「不正だって? 私は世の中の為に良かれと思って……」
「死んでもかまわない命などありはしない」
捻り上げられた腕が軋むような痛みを生み出した。何故私がこんな目に遭わなければならないのか……。
私は長瀬を睨んだ。この男はやはり、良い子ぶった愚か者だったのだ。
「お前が金と引き換えにやっていることを、警察は気付いていたんだよ」
手を解放されて、漸く私は声を出すことができた。馬鹿力め。
「お前は警察の犬に成り下がったのか」
「俺を侮蔑しているつもりか? 俺の行動がそうだというなら、そう思えばいいさ。誉め言葉として受け取っておこう」
少年が扉を開いた。小さく、女中の慌てる声が聞こえた。
「観念したまえ、警察が到着したようだ。
時間だけはたっぷりある。精々自分の犯した罪を理解し、反省するのだね」
ふざけやがって……私は低く唸ったが、長瀬はさも自分が正しいとばかりの表情であった。
覚えていやがれ……お前の弱点を私は理解した……。お前の弱点は……。
居丈高な態度の刑事に手錠を掛けられながら私は、生意気そうな表情の少年を見た……。
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