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大学時代
二人が去った後、三人で改めて飲み物を頼む。圭には、レモネードを。
「お前の大学、犯罪者を養成してたんか?」
「在学中は何とも思わなかったが、そうだったのやも知れんな」
有朋だけでも問題だと思っていたのに、今日捕らえられた後輩と、どうやら先輩らしきペテン師。思わず自分はまともだろうかと、周りに聞きたい気持ちにさせられる。
「俺。と仰ってましたね。相馬さんは僕でしたから」
「俺や勇一は、俺と私を時と場合によって使い分けるが、相馬は常に僕だった。俺だなんて冗談でも聞いたことがない。
まぁ、相馬を全く知らない人間を騙すのなら、そこまで合わせる必要はあるまいが……」
「何が目的なのでしょう? ペテン師として偽名を使うのはありがちですが、態々実在する人物の名を騙る理由。
相馬さんに何らかの、負の感情を持っているのでしょうか?」
「それもありそうだが、家族が気付いて、相馬有朋なる人物を調べた時、高林商事社長秘書という過去があるわけだから、それだけで信用されるってことになるだろうからな。
高林商事の醜聞は知れ渡っちゃいるが、相馬有朋自身は関わっちゃいない。表向きは」
圭はレモネードを口にすると、満足そうな笑顔を見せた。お気に召したらしい。
「お前、この顔に覚えはないか?」
言われるまでもなく、さっきからずっと絵を眺めているが、記憶にない。先輩だとの言葉を信用したとしても、思い出せない。隼人はそれなりに人付き合いはそつなくこなした方であるが、親しくしていた人間は極端に少ない。
今日捕らえられた江古田正司にしても、同様である。大学時代、隼人は週に一度か二度、精神鍛錬の為に道場を借りていた。その際、弓道部に所属していた江古田と話す機会があっただけで、親しかったわけではなかった。江古田は、学生としては不真面目で、不良であり、真面目であった隼人をあからさまに馬鹿にした態度を示していたが、弓道の腕は優秀であった。
相手が自分を見下していようと、弓道の腕は間違いなかったので、構え方など教えて貰った為に、未だに覚えていたのだ。
面倒なのは、有朋も隼人も目立つ存在であったので、二人が全く知らぬ相手であっても、向こうは二人を知っている。
「一応範囲を狭めるとしたら、一年上の先輩ってことになるな。
相馬と知り合ったのが、俺が三年の時だから」
「成程、相馬さんとは二学年違いでしたね」
「お前が分からないのなら、同じ頃在学していた人間に聞くのが一番だが」
「そうだな……」
「大森さんに伺ってみるのは?」
「成程、前科があるやもしれんな」
「不謹慎だが、あって欲しいな」
カフェーを出ることにして、三人はそれぞれ飲み物を口にした。圭はどうやら気に入ったらしく、レモネードがほぼ空になっていた。
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