待ち合わせは裏腹に

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「いまどこにいるの?」 「待ち合わせの公園に向かってるとこ」  私が確認のメールをした時、返信メールから彼が移動中なのだけは分かった。  今日は私たちが、俗にいう恋人関係になった記念の日。その記念に告白した公園で待ち合わせしようということになっている。   「寒いな……」    私は待ち合わせの公園のブランコの上で彼を待つ。時間はまだまだ夕方の五時を回ったところ。彼との待ち合わせ時間は午後六時。まだ一時間早い。  ドキドキしながら彼を待つ。  会うのは久しぶりで、実に半年ぶりだろうか?    去年、この公園で学校帰りに告白したのも午後六時ごろ。それから半年が過ぎたあの日、両親の仕事の都合で、彼は簡単には会えない距離に引っ越してしまった。  会おうと思えば会えたと思う。だけどそこはお互い高校生。たいしたお金もなく、そう何度も会える距離じゃなかった。  今の時代はテレビ電話だって使えるし、SNSもある。繋がる手段はいくらでもある。そうした文明の利器は、確実に私たちの長距離恋愛を維持してくれている。  あれから半年、いよいよ彼と半年ぶりの対面。ちゃんと来てくれるだろうか? さっきメールの返信があったから大丈夫だとは思うけど……。半年間という時間が、物理的な距離が、本来は問題ないはずの私の心をざわつかせる。信頼の水面に波紋を広げる。心の距離は離れていく。  こればっかりは文明がいくら発達しても、変えられない人間の心の弱さだと思う。  私は強くない。  自分の容姿に自信は無い、彼は反面イケメンだ。引っ越した先で可愛い女の子に言い寄られていたって不思議じゃない。彼のSNSだってチェックしちゃうし、チェックしてどこかに出かけてきたなんて投稿を目にしてしまった暁には、自分のベットの上で悶々とする時間が待っている。  文明の利器は、心の弱い私には毒かもしれない。そう思いながらも、これは唯一彼と繋がれるアイテムだ。そうそう手放したりなどできやしない。  寒さに震える手をさすりながら公園の立派な時計台を見上げる。時計台の裏側にはベンチが設置されていて、どっち側からでも時間が見えるようになっている。  時刻は午後六時ちょっと過ぎ、待ち合わせの時間から数分が経った。  しかし彼は現れない。  数分ぐらい……。自分を落ち着かせるために言い聞かせる。もしもの嫌な考えを頭から投げ捨てる。  気づけば雪が舞っていた。まだまだ粉雪だが、地面は凍るだろう。それぐらい寒い。真冬の寒さは、座っている私の体を冷やしていく。  時刻は七時。流石におかしい。ちょっとならと思っていたが、一時間遅刻はあり得ない。彼の性格上あり得ない。ましてやこんな雪の降る夜の公園に、彼女をほったらかしにするような彼ではない。  もしかしたら彼の身に何かあったのだろうか?  そんな不安が脳裏をよぎる。  それとも単純にこの公園の場所を忘れてしまった?  あり得るかもしれない。彼はイケメンで優しいが、頭はあんまり良い方ではない。そこが可愛くもあるのだが。  ふとそんな時、ポケットに入っている物に気がつく。  冷え切った手でポケットをまさぐると、そこにはスマホが入っていた。  当然のことだ。  だってほんの二時間前にメールをしたんだから。  私はそっとスマホをつけると、メール受信のお知らせが一件入っていた。差出人欄には彼の名前、本文はまだ見えない。  私はドキドキしながらメールを開く。  受信時間は一時間前、待ち合わせの時間とほぼ同じ。  本文はシンプルで「今着いた」「時計台の前にいる」  それだけだった。 「時計台の前?」  私は立ち上がり時計台に目を向けるが、彼の姿はない。  なんで気がつかなかったんだろう?  気が動転しておかしくなっていたのか? メールの存在を、もっと言えばスマホの存在を忘れていたなんて……。いくら便利な世の中になっても、使う人間がしっかりしなくちゃ意味がない。 「でも時計台には……」  その時思い出した。  時計台の裏側にはベンチがある。だけどそっち側はちょっとした林となっており、普通ならそっち側には座らないはず……。  でも考えても仕方ない。  私は二時間待ったつもりでも、あっちからしたら一時間待たせてしまっているわけで……。もしかしたら呆れて帰っちゃったかもしれないけど、それを確かめるためにも動かなくちゃ!  私は震える体に鞭を打ち、粉雪が舞い散る中、薄い月明かりと街灯が照らす地面を踏み鳴らす、走りだす。  目指すは愛する彼の元へ。  もういないかも知れないけど、それでも! 「久しぶり! 待たせてごめんね!」  時計台の裏側に回り込んだ私の体を、同じく冷え切った体が迎え入れ、ぎゅっと優しく抱きしめられた……。
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