1人が本棚に入れています
本棚に追加
ユウヤは物事を重力に逆らわせるのが好きだ。それはとてもいいことだと思う。地球に引き寄せられていくものをわざと空へ突き放す、部活のテニス然り。
黄色いボールを追いかけるそのゲームでは、ボールはその長さや大きさは違いこそすれ必ず放射線を描きながら地面へ落ちていこうとする、それを下から上へと跳ね返すのだ。私はその仕組みがとても素敵なことに思えて、とても好きだと思っている。当のユウヤはそんな仕組みについて微塵も感じたことはないのだろうけれど、逆らうことが正当化されたものを好きとし得意としさらには楽しんでいるのだから、やはり一定のルール、決まりには私たちは逆らえないのだろう。そしてそれらに魅力を感じ、やりがいを見いだして、そのルールの延長線上に打ち込み、励み、笑うのだろう。
ああ、太陽が金色にキラキラ煌めいて、何てキレイなんだろうだなんて、きっと心から感じたのは幼稚園か小学校低学年が最後。
それでも太陽の光の中、沢山の汗を飛ばしながらキラキラ笑うユウヤを見て、ああこの人は、なんて太陽が似合う人なんだろうと感じたのが、今の私の終わりであり始まりなのだ。
「本当あっちぃね」
「いい加減にして欲しいよねー」
汗を道に溢しながら、ぼーっとする頭で前に続く道にかろうじてある陰を何とか探し出そうとしつつ、曖昧に相槌をうつ。
アイスでも体内に溶かして、四肢に冷たさを巡らせたい。見つからない陰に舌を心中でうち、彼の背後に近づいて足元から伸びている影に飛び込んでみたが、受け入れてくれるのは所詮膝下まで。そんなもので額を這う滴に影響を及ぼす事なんか不可能に近い。
ゆったりと、引きずるように足を前に出す作業を幾度か繰り返しながら、どうしてこんなに夏って暑いんだろうと愚痴を口からこぼした。余計な二酸化炭素を地球上に吐き出しただけで終わることは目に見えて理解してはいたが、無言を貫いても暑さが紛れる訳でもない。だから独り言のつもりで呟いた。別に返答は大して望んではいなかったのだけれど、キラキラと煌めく彼はしっかりと口を開いて、「そりゃあ夏だから」と二酸化炭素を灯してくれる。
「だけど夏ってさ、空とかキラキラしててキレイじゃね?」
さぁっと駆け抜ける風にスカートがはためく。昔と変わらず煌めく彼の金髪の向こう側には、面白いほど澄んでいる青い空が広がっていた。
相変わらず太陽は私に無惨な仕打ちをするけれど、それでも今の私の足取りは、1分前の私のそれよりも遥かに軽やかなものに変わっていった。
身長の割には大きくて骨ばった手にできている幾つかのタコに愛しさを感じて、自然に口角が上がるのを押さえつけようと葛藤する私には、きっとこの手の持ち主の心情なんて、一生わかりっこないんだ。その事だけはわかるのだけれど、そんな事実はいくら考えても堂々巡りで、結局最後にはそれ以上でもそれ以下でもなくなるのだから。
「ユウヤ、」
「なあに」
「ねぇ、名前で呼んで欲しいな」
あるいてごらん、きれいでしょ。
最初のコメントを投稿しよう!