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部活が終わるのはいつも下校時刻ギリギリ、もしくは少し遅くなることもある。
大抵は規則に厳しい部長が仕切ってくれるから、夏ならまだ夕日を見ながら帰る事ができる。しかし冬は日がとっぷりと暮れている。寒さに負けて先輩達とコンビニに寄って肉まんを頬張ることもしばしばある。俺はこの時間が大好きだ。疲れてくたくたで、でも楽しくて仕方なくて、でも安堵の中でまた切なくなったり、とか、夜道に一筋灯っているコンビニの明かりのせいだとは思うけど、仲間とお別れする、でもまた明日会える、しかも明日は今日と変わらないいつもと同じ毎日の内のひとつなんだ、って思うとどうしてもなんか鼻がツンってすんだよな。
コンビニの電灯は道に沿って横に設置されてるんだって先輩に教わった時、何か癪だなって思った。虫とおんなじ扱いかよ。俺らは虫じゃねぇよ。ブレザーの下のセーターがだぼついて、袖の中でもたってするのが気になる。自販機でコーヒー買って、でも熱くて持てなかったりすると自分が誰かに観察されていて今の情けないところもバッチリ記録とられてんじゃないだろうかと恥じつつやっぱりあったけーよな缶コーヒーはな!!
「お前落ち着けよ」
「俺はいつだって落ち着いてるよ」
「嘘つけ」
「冷静沈着が専売特許の人からみたら誰だって騒がしく思えるんじゃないのー」
「…お前は騒がしすぎるんだよ。」
バカに見えるぞ、と呟き俺と同じ缶コーヒーを口に含む彼は内心まぁバカなんだけどって呟いているに違いない。爪先を小さく蹴ってやった。
「…何だよ」
「元木」
「何」
「何か寂しい」
「…冬だからだろ」
ああそうだよな冬だからだよなーなんて、そんな簡単にこの人恋しさを誤魔化せる訳ねーじゃん。この公園ゴミ箱ねーのかよ!
「…桜井」
「何」
「…お前は別に現状に満足してるんだろ」
「…どーかな」
きっと元木のが辛いんじゃないかと自分を慰めたことも少しある。自分を慰めるって…意味を変えると…違う違う俺は元木なんかじゃ抜けねー。
「元木は思い詰めすぎなんだよ」
元木のせいにしてみたり。元木は無口だ。カシャ、と手元のアルミ缶を潰した。部長とかだとこれもっとペシャンコになんだけどなー。握力鍛えないとまだまだ追い付けない。
「先輩たち、ってさぁ!」
「ああ」
「…背中が広すぎんだよな!!」
ガタッとベンチから勢いよく立ち上がり、元木が持ってる缶を奪った。風が耳をどんどん冷やしていく。
「元木のばーっか!」
「なッ…」
「ばーかばーか!!皆バーカ!!」
俺はアルミ缶を全力で前方に放り投げた。何か空気に負けた気がして凄く悔しかった。冬というだけで焦燥感が募る。鼻の奥を刺激する寒さを吹き飛ばすためには俺は暴れ続けなければならない。公園に俺ら以外誰も居なくてよかった、明日が日曜日でよかった、元木と今日会えてよかった、だって俺は同学年でつるめる奴らがいないから、先輩たちの残したものは余りにも大きすぎたから、握力すら追い付けないなんて本当に俺はただのバカみたいじゃないか。
「…桜井」
「…何」
「…明日対戦しないか」
「…わざわざ負けに来るわけ」
「…勝つから」
知ってるよ、元木が本当はたまに優しくなるってことくらい。それでもやっぱり俺は悴んだ両手を開くことは出来なかった。
「桜井。帰るぞ」
「…ふ、」
青春だなあ、とか言わない不文律がもどかしい。背中を押してくれた元木の手は、おそらく俺より少しだけ小さいのではないかと感じた。
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