ナイトプールが出会いの場だと知らずに友達に連れてこられた地味な大学生がド派手な美しい男にナンパされて口説かれる話

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 お酒のせいでふらついてしまうと、手を繋がれた。そのままプールサイドを手を繋いだまま歩く。  男同士だから変に思われないか、と思ったけれど、酔いの回った頭はすぐにそのことを考えるのを止めてしまった。  大きな温かいケータの掌が気持ちよくて、離したくなかったのかもしれない。  導かれるままにプールサイドを歩き、プールにひたりと脚を浸ける。 「きもちいー……」  プールサイドに腰かけて、脚だけプールに浸す。火照った躯に丁度いい、涼やかな水。ちゃぷりと音を立ててプールに入ったケータが、海斗の前に立つと腰に腕を回してきた。水深1.5mほどの深いプールなのでケータの頭が海斗のお腹の辺りにくっつく。 「ふ……っくすぐったいよ」  柔らかなブロンドを腹に擦り付けられて、海斗が笑いをこぼすとぐっと、腕に力を込められて、プールに引きずり込まれた。 「わ……っ」  ばしゃん、と音を立ててプールに落っこちた海斗をケータは難無く抱き止めた。 「泳げるよ……」  子供のように抱き抱えられた海斗が溢す。 「うみが綺麗に泳げるのは知ってるよ。見てたもん。でも、今泳いだらお酒回っちゃって危ないよ、 ね?」 だからこうやって、あそぼ?  海斗の脚をケータの腰に、腕を首に巻き付けさせる。  ケータの甘ったるい香りが、胸いっぱいに広がって、 アルコールでくらくらしているのか、美しい彼にくらくらしているのか、判断もままならない。  海斗を抱えたまま、ケータはゆっくりとプールの真ん中辺りまで進んで行った。歩く度に彼のピアスが揺れてぶつかるしゃらしゃらという小さな金属音まで耳に届く距離。  プールの真ん中まで着くと、プールサイドの喧騒がひどく遠くに聞こえた。  とびきり綺麗な彼の顔の向こうにまあるい月が見えた。 「わー、きれい……」  思わず海斗は呟いた。  アルコールで火照った躯には冷たく感じられる水。  でも、ぴたりと合わさった胸が熱くて、全然熱は引かない。 「うみ、肌すべすべだね……きもちいい……」  うっとりしたように言ったケータが頬を擦り寄せてくる。距離が近すぎておかしい気はどこかでしているけれども、彼の感触も、声も、香りも心地よくて拒めない。 「でも、肌弱いんだぁ。だから、今日は外のプールで日焼け気にしないで泳げると思ってよろこんじゃってさ。友達に誘われたのも嬉しくて」  はしゃいで一人にされちゃったなんて、ばかみたいだよね、と惨めにならないように明るい声で告げる。  ケータはするりとちいさな心の隙間になめらかにすべり込んできたみたいだった。心に映ることをするすると口にしてしまう。 「名前にうみって付くのに、 海で泳げないの。日に焼けて火傷みたいになっちゃうから。泳ぐのはすきなのに」  明るい声なのにどこか切ない海斗の声。ケータは優しく海斗の頭を撫でた。 「夜でも泳げる綺麗な海、知ってるよ。今度連れて行ってあげる」 「そういうことは言わないで。楽しみにしちゃうから」  ケータの向こうに見える月も、ケータのブルーグレーも美しすぎて思わずぎゅっと目を瞑ると、唇に温かいものが触れた。 「約束のキス」  そう言って、驚く海斗にケータは優しく笑って見せた。  びっくりして目を見開いた海斗。  ふるふる震える唇。 「うみ……?まさか、初めてってことはないよね……?」  海斗の様子に、笑顔を引っ込めて心配そうな顔でケータが覗き込む。 「……ぅ……」  嘘を吐くことも出来ず固まる海斗。 「うっそ。マジかよ……」 信じられない、 気持ち悪いって笑われるんだろうな、とぎゅっと海斗は目を瞑る。 「俺、超ラッキーじゃん……今日だってめっちゃうみのこと狙ってたやつらいっぱい居たのに」 「え……? んんっ」  ケータが言った言葉を理解するより前に、もう一度唇が重なった。ファースキスはレモンとかマスカットの味だなんて言ったやつは何処のどいつだろう。柔らかくて、熱くて、 どろっどろに煮詰めたシロップより甘いのに、少し苦くて、ぬるぬるとしていて、口の中が彼の匂いでいっぱいになる。とんでもなく、いやらしい。  ケータの舌が、上顎や舌の根をくすぐるように舐める。  思わずケータの腰に絡みつけていた脚にぐっと力を込めてしまう。 「……もう、わざとなの? うみ……煽らないでよ……」  わざと? 人とこんな風に触れあうなんて、初めてなのに、わざとのわけがない。でも、それさえも口にする余裕もなく、溺れないように必死でケータにしがみついた。泳ぎは得意なのに、ここでケータから離れたら溺れてしまうような錯覚に襲われていた。  ちゅ、ちゅ、とふっくらした下唇を吸われて、甘く噛まれて、意識が遠退きそうだった。 「あっ……こんなの、だめなのに……こういうことは、 恋人としかしちゃいけないのに」   首筋を甘く吸われて、思わずいやらしい声を溢しながら言うと 「じゃ、俺達恋人になろ。いいでしょ?」  ぱちゃりと跳ねた水で濡れたブロンドの前髪から覗くブルーグレー。  綺麗で、綺麗で、こんな綺麗なものは見たことないくらい綺麗なブルーグレー。こんな綺麗なものが自分のものになるなんて、いくら酔っていてもあり得ないと分かっていたし、こういうところで交わされた約束はその場の雰囲気に酔っただけのもので全部かりそめだと、いくら世間知らずの海斗だって分かっていた。 「うみ……うみ……いいよって言ってよ。お願い」  額に、頬に、鼻先に、綺麗なかたちの唇を落として、大きな掌は水の中でそっと海斗のお尻を優しく撫でた。 「ぅ……んん……ぁ」  ぞくぞくして、うんと気持ちいい。ぴたりと合わさった胸からドキドキとどちらのものか分からない鼓動が響いて頭の中がとろとろしてくる。 絡み合ったところから触れている彼の肌全てが気持ちいい。  夏の花火みたいな刹那的なものでも、その瞬間、忘れ得ぬほどに美しければいいじゃないかと思えるほどに気持ちよくて美しい彼が眩しい。 「お願い。ね? お願い……」  こんな綺麗な人を拒めるやつなんてきっと、いない。だから頷いてしまうのは仕方ないんだ。と自分に言い聞かせて、こくり、と頷いた。 「やった……嬉しい……」  一夜限りの儚い約束に、この人はなんて美しく笑うんだろう。  もう一度唇が重なった。 「うみ……吸って……」  甘い声に促されるままに、彼の熱い舌をそっと吸うと、いいこ、と褒めるようにお尻を撫でられて、喉の奥からとろりと甘い声が溢れた。 「うみの、くち、きもちいいね……お尻も、柔らかい……」  そう言って何度も吸われて、舐められて、もうかたちを成していないんじゃないかと思うくらいとろとろになったとき。 「ちょっと冷えちゃったね……俺、今日ジャグジー付いてる部屋取ってるから、一緒にあったまろ。いいよね?」  とろん、と蕩けた瞳をそっと開くと、同じようにとろとろに蕩けたブルーグレーが、海斗を見つめていた。  こんな目で見つめられたら、勘違いしてしまいそう……  それでも、いい。今だけ勘違いさせて。  僕の知らなかった甘い海で溺れさせて欲しい……  まあるい月はうんと美しく綺麗に二人を照らしていた。
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