ナイトプールが出会いの場だと知らずに友達に連れてこられた地味な大学生がド派手な美しい男にナンパされて口説かれる話

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「なんでこんなとこ来ちゃったんだろ……」  泳ぐのは大好きだが、肌が弱く、陽の当たるプールで泳ぐことはできなかった。だからいつも室内プールで泳いでいるのだが、友人にとある都内の高級ホテルでナイトプールなるものを開催していると聞いて誘われてやってきた。ホテルの中庭に作られた南国ムード溢れるラグジュアリーなプール。  涼しい夜のプールで泳ぐのかとワクワクしてやってきたが、実際このナイトプールで泳ぎを楽しんでいるのは海斗だけであった。  一緒に来た友人達はそんな海斗を笑い者にして、出会った女の子達と何処かへ消えてしまった。  真剣に泳ぎを楽しんでいたので全く気が付かなかったが、このプールでは他には泳いでいる者なんておらず、プールサイドでは普段海斗が出会うことがないようなきらびやかな男女が露出の多い水着姿で、酒を飲んでいる。プールに入っている者もいるには居るが、目を覆いたくなるほどぴったりくっ付きあっていちゃいちゃとプールに浸かっているだけで、誰一人海斗のように がっつり泳いでいる者は居なかった。 「一生懸命泳いじゃって、恥ずかし……」  そうちいさく呟いて、 入場料とセットだったドリンクチケットで交換したカクテルに口を付けた。あまり好みではない舌に痺れるような苦味が残る。カクテルの名前なんて全然分からなくてアルコールの強いものを頼んでしまったのかもしれない。頭がくらくらする。  友人達もきっと呆れたに違いない。元々真面目過ぎるきらいのある海斗を少し馬鹿にしていたと思う。だから、何も言わずに彼らは消えてしまったのだ。   こんなところでがっつり泳いでしまうほど空気の読めない自分は友達付き合いが上手くない。テスト終わりに友達に誘ってもらえるなんてと喜んでいたのが馬鹿みたいだ。 「はぁ」  切なく溜め息を吐いて、これだけ飲んでしまったらもう帰ろうとぐっ、とカクテルグラスを 傾けた。そして、今度はアルコール混じりの吐息をゆっくりと吐いた。  今日まで大学の試験だったため、寝不足なのもいけないのかもしれない。くらくらする。 「電子回路理論、難しかったけどちゃんと取れるといいなぁ」  アルコールで少し火照った唇をつん、と尖らせたときだった。 「お兄さん、一人ぃ?」  思わず声のした方を振り向くと、海斗は呆然とした。  やたら派手なハーフパンツタイプの海パンを履き、アロハシャツを素肌に羽織った男がそこにいた。誰もが羨むような躯を惜し気もなく晒し、銀色に近いほどの輝くブロンドヘアが眩しい男。大きなサングラスの威圧感に、思わず喉の奥を、ひっ……と引き攣らせてしまった。 「あ、ごめん。ごめん。サングラス怖かった?」  そう言って恐ろしく美しい指でサングラスをするりと外して、 アロハシャツのポケットにしまうと、 ブルーグレーの息を飲むほど美しい瞳が現れた。  男の美しさに呆然とする海斗が座るデッキチェアの僅かな隙間に男は座り込んできた。ふわり、と男の甘すぎる香水の香りが揺れた。 「お兄さん、泳ぐのめっちゃ上手いね。すごい綺麗なフォーム」  見とれちゃった、とブルーグレーを細めて見せた。  耳に揺れるピアスと煌めくような美しさに呆然としながらも言われた台詞を頭で反芻して海斗は答えた。 「……あー……すいません…此処が何て言うか……こういう遊び場だって知らなくて……普通のプールみたいに泳いじゃって」  からかわれていると思い、席を立とうとした海斗の腕を男がそっと掴んだ。 「からかってないよ、ほんとのこと。都会に現れた人魚姫かと思って皆見とれてたよ」  男の言葉にぱしぱし、と数度 瞬きを海斗はした後、酔っていたこともあり、綺麗な男から吐き出される女の子を口説くような台詞が面白く感じられて思わずプッと吹き出した。 「そんなわけないじゃないですか」  笑った海斗の顔を恐ろしく美しい顔の男は少し驚いたように見つめて 「笑顔も、かわいいね」 と言った。 少しの酒で酔っていた海斗は何だかどんどん面白くなってきてしまった。 変な痴漢にはよく遭うけれど、モテたことなんてない地味な男にこの誰もが振り返るほどに眩しく美しい男は何を言ってるんだろう。この男も酔ってるのかな。初めて見るほどの美しさに、なんだか現実味さえ感じられなくて、 「ははは。お兄さん冗談がうまいですね」 あー、なんか笑いすぎて涙出ちゃいました、と言うと、綺麗な男は海斗を覗き込んで、 「お兄さんじゃなくて、ケータ。ケータって呼んでよ。君は何て名前?」 と尋ねられた。 「うみ」  首を傾けながら海斗が小さい頃から家族に呼ばれてきた愛称を口にすると、 「うみ……名前も可愛いね」 とケータはうっそりと笑った。 それから 「それ、飲み終わったの?新しいの貰ってくるよ」 と、海斗のグラスをするりと奪ってドリンクカウンターに向かってしまった。  もう帰るつもりだからいらない、と言わなかったのは寂しかったからなのか、恐ろしく美しい男の綺麗な瞳が存外に温かく感じられたかなのかはもう酔っている海斗にはわからなかったが、火照った頬や唇をじっとりとした夏の夜の風に晒している間にケータは戻ってきた。
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