Christmas Dash!

11/14
前へ
/14ページ
次へ
そう言って慌てて席を立ったご婦人は、荷物を取ろうとケーキを椅子に置き、上に乗せた荷物に手を伸ばしている。 「私が取りますよ」私も同じ様にケーキを置いて荷物を下ろした。 今市の駅に着くと、ご婦人はお礼を言って下さり、荷物とケーキを持って扉の向こうに消えて行った。 自分の席に座り窓の外を見ようとした時、隣の席にケーキの箱が目に入った。 「あれ?」 一瞬で青ざめた私はホームに着いてしまった車両の通路をケーキを持ってダッシュした。 発車の音楽が鳴り始めた。まずい! もうご婦人はホームを歩いている。お孫さんのケーキが! ドアに向かうと降りようとしている若者がいた。 「あの!このケーキ、あそこを歩いているご婦人の忘れ物なんです!渡して下さい!」とケーキを託すと扉は閉まった。 「ふぅ、間に合った…」 小さく呟き席に向かった。 席に着こうとした時…。 「えっ?無い!私のケーキが無い!」 周りの人達が私を見ている。何方かが窓の外を指指した。 「えっ!」 見ると、ご婦人がケーキの箱を掲げ慌てた表情で私を見ている。 その姿が窓を伝い見えなくなった…。 どうしよう……。呆然として落ちる様に椅子に座った。 次の駅で降りて戻ってみようか… でもそうしたら着くのは夜中だ、手ぶらよりはいいか…。頭が混乱した。 涙が出てきた。お義母さんが智也君の悲しむ顔を見たくないって言ってたのに…。 翔真にメールをしようかと悩みながらスマホを見るとメールが来ている。相澤君からだ。 「旧姓早坂佳美、仕事が変わっても全力で頑張ってるみたいだな、元気そうで安心した」 でも失敗したら意味ないし……。その言葉で逆に落ちこんでしまった。 全力か……。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

72人が本棚に入れています
本棚に追加