72人が本棚に入れています
本棚に追加
窓の外にはもう街の灯りはない。その窓に映っている自分に問いかけた、全力出し切った?
そうじゃない!お食事には間に合わないけれど、まだ出来る事はある!
鬼怒川温泉駅に着いた。私は本屋に駆け込み1冊の本を買った。
「帰ってから作ろう…はじめから作るのを諦めた事のバチが当たったんだ!」
私は本を抱え鬼怒川の温泉街を走っている。
急がないと!
クリスマス ダッシュだ!
「ただいま!……あれ?誰もいない…」
帳場には誰もいない。とにかく智也君に謝りに行かなくちゃ。
私は階段を駆け上がり、松島様がご宿泊の部屋の前に辿り着いた。息を整えて扉を開けようとすると、中から笑い声が聞こえる。翔真の声もする。
「失礼いたします…」
私は正座をして左手で恐る恐る襖を開けた。
「あら、若女将。お帰りなさい」
女将が私に気付き松島様に紹介をしてくれている。
その声に被さる様に元気な男の子の声がした。
「お姉ちゃん、ありがとう!」
「えっ?」
料理の真ん中にはあのケーキが置いてある。
翔真が耳元で
「佳美、うちの事話したろ?だから届けてくれたんだよ」
「えっ?どういう事?」
「今市からは車で20分だよ、佳美の鈍足より早く着くだろ」
鈍足とはなんだよ!と翔真を睨むと。
「失礼いたします」
と男性の声がした。見ると板長だった。手には料理が乗ったお皿がある。
「こちら米粉で揚げたフライドチキンです。クリスマスですので、ご子息様にどうぞ」
私は驚き女将と顔を見合わせた。
「米粉ですか?わー智也、これならたべられるね?」
松島様は大変喜び、智也君は直ぐに頬張って美味しいとはしゃいでいる。
「では…」
無表情で松島様に挨拶をして襖を開ける板長の顔を見た時、微かに笑っている様に見えた。
最初のコメントを投稿しよう!