72人が本棚に入れています
本棚に追加
「ハイ…」
「あっ!早坂さん…じゃなくてえぇっと」
「その声は進藤さん?」
最後に勤めたスーパーで一緒に戦った進藤さんだった。食品マネージャーとして初めての年末を向かえる進藤さんが心配で、朝歩きながら電話してみようと思ってた事を忘れていた。
「はい、突然すみません、お恥ずかしいんですが、ちょっと困ってしまって、お聞きしたい事があって」
「いいけど…相澤副店はいないの?」
私の後任は同期入社の相澤君。去年まで食品マネージャーだった。その相澤君がいるのに困った事とは?と思い聞いてみた。
「あっ、相澤副店長は奥さんが産気付いて遅れて来ます。なので来てから急いでも、鏡餅やしめ飾りの売り場変更で間に合うか…なのでその前にお節の売り場を少しでも進めないとと思ったのですが、レイアウトを副店長が持っていて…」
スーパーのクリスマスイブは忙しい。クリスマス一色の店内を一晩でお正月準備の売り場に変えなければならない。
ケーキやパーティーグッズ売り場は鏡餅やしめ飾り、シャンパン売り場は日本酒、そしてクリスマスパーティー材料はお節の売り場に…。
赤と緑の媒体は全て紅白幕に、天井から吊ってあるクリスマスリースを繭玉や凧に替えなければならない。
なのでスーパーの店員にはクリスマスイブは無い。
「進藤さんがわからなくてもパートさん達がいるじゃないですか」
「あっ…」
「一人で頑張っても終わる日ではありませんよ?基本だけ守れば進藤さん流でいいんじゃない?」
「基本?」
「そう、蒲鉾を並べる時は白が左とか、長呂義は黒豆と同じ所とか…パートさんが知ってるから聞いてみて、特に優秀な鏑木さんに」
「鏑木さんはご予約ケーキに付きっきりで…」
「あっ、そうかぁ…。渡し間違いがあっては、ならない一番大事な所だからね。ケー………………あっ、あぁ~っ!」
私は大声をあげた。女将と社長が驚いてこっちを見た。
「進藤さん!電話ありがとう!後でお願いする事あるかもしれない、一旦切るね、じゃあっ!」
最初のコメントを投稿しよう!