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あいかわらず、なんて傲慢な男だろう。
さくらは呆れたが、でもそれでも、
『なんだって、タキシードなんか着て来るのよ、この男は』
龍一の姿は完璧である。
体にピッタリとあったタキシード姿。
普通の男なら、平凡な街中でこれをやったら、まるでピエロだ。
だけど龍一ときたら、そんな恰好が似合いすぎていて、まっったく、これっぽっちも周囲に違和感を覚えさせない。
ムカつく。
なんだってこの男はこう、顔だけはマトモなのだろう。
そして世の中の、この顔に騙される人の多いこと。
ちょっと世界の不条理さに泣けてくる。
しかし泣いても問題は解決しない。
今はとにかく不要な注目を集めるだけ集めまくっていて、さくらはものすごく居心地が悪い。
それで仕方なく、イヤイヤ、さくらは龍一の命じるままアストンマーティンの助手席に収まった。
バタン、とドアが閉められる。
集まってくる羨望の眼差しとは裏腹に、バケモノの腹の中に飛び込んだ気分だった。
「で、どこへ連れていくの?」
運転する龍一に聞いてみるも、当然のように返事は返ってこない。
期待するだけ無駄だとわかっていたが、これはもしかして誘拐に当たるのではないかと、さくらは試しに携帯電話を取り出して110番してみた。
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