さくらと龍一

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しかし、電話は繋がらなかった。 電話自体がうんともすんともいわない。 壊れたのかと電話を上下に振ってみるさくらに、 「車はジャミング中だ」 龍一はどこか小馬鹿にした口調で言う。 意味がわからないので、 「は? どういう意味」 説明を求めたら、 「誘導爆弾を避けている」 もっと意味不明なことを言われてしまった。 「……」 やっぱりこの男とは会話は出来ない。 諦めた。 さくらはそっぽを向いて、車窓を流れる景色を眺め始めた。 ほどなく車はデパートの前に横付けされた。 日本でも有名な老舗のデパートだ。 正面入口の前には制服を着た従業員がズラリと並んでいて、 「いらっしゃいませ」 一斉に頭をさげてきた。 おもてなしの国ニッポンの話はよく聞くが、さすがにこれはやり過ぎなんじゃないかと、さくらは龍一の手を取って恐る恐る従業員たちの間を進んでいく。 龍一にエスコートされるなんて真っ平だったが、さすがにこんな注目されている中で、差し出された手を邪険に振り払えない。 さくらだって一応、気を使うことぐらいあるのだ。
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