『西から昇るもの』

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ふと、目を開けると…そこは久しぶりの曇天の広がる夢の世界だった。 かたわらではスラッグがもそもそと動いており、その辺をうろついているプランクトンのドリーマーか何かを食べているようだ。 ドリーマーはこんなふうに、ジェム以外にも食べることが出来るが、ジェムを摂取し続けないと能力が発揮できないらしい。 以前、そんな話を聞いたことを思い出した。 「……目覚めたか、サトル。」 「スラッグ、すまん待たせたか?」 俺は少しぼんやりする頭を軽く振りながら立ち上がった。スラッグはそうでもない、といつものように無感情に返すが、その奥に感じる表情はやはり嬉しそうだ。 スラッグと出会い、もうすぐ1年… この恐ろしくも驚異的な世界で目覚めた俺を、野良Dreamerから守ってくれたのがスラッグだった。 ふと、昔のことを思い出す。 だがすぐに、スラッグの言葉に俺は我に返った。 「…サトル、ここは誰かルーラーの夢の中だ。お前は呼ばれたのかもしれんぞ?」 「夢の中……そいつの夢世界に俺たちは呼ばれたのか?」 「…おそらくは。世界の構成要素にヒトの匂いが混ざっている気がする。」 そして俺は当たりを見渡した。 すぐに視界に、どこか異国の建物や標識が目に付いた。 足元には古い頑丈な石畳が広がり、見渡す限り煉瓦やコンクリートでできた家々が見える。 標識も英語のような見慣れない文字で、中央に広場があるのだが、そこに四方を指した立体的な標識が立っている。 ここは…ヨーロッパ諸国のどこか、西欧国のストリートのようだ。 そして遠い山にはうっすらと白い雪冠がかぶり、松のような針葉樹の群生が見える。 そして何より……雪も無いのにとても寒い。 寒さが芯から冷えるような、強いて言えば喜多方市の真冬のような寒さを感じる。 「ここは寒いな。ロシアかどこかかな?」 「位置的には……そうだな、日本よりずっと北東のようだ。国の名前はわからないな。」 スラッグが淡々と言った。 俺は立体的な標識や、赤や黄色の派手な瓦屋根や外壁を見て、明らかに日本家屋と異なる印象を受けた。 建築は専門ではないが、やはり住宅に関わる仕事なので、人並み程度には知識がある……はずだったが、やはり分からないものはワカラナイ… 「…読めん。これは英語じゃないな? 」 「すまんな。お前たちの文字はわからない。」 スラッグはさすがに字は読めないらしい。 だが、このフィールドから受ける感覚は、どうやら西欧の寒い国のようだ、と呟いていた。 「まぁ、何にしてもこんな広場にいては狙われるな…とりあえずストリートに逃げよう。」 スラッグはぴょーんと俺の左肩に飛び乗ると、おれは急ぎ足でその場から離れた。 移動を始めたとき、冷たい風に混じってなにかオイルのような油の匂いがした。 そして目の前を延々と続く、石畳の民家の通りを俺たちは足早に歩いていく。 もちろん人気はなく、生命体の気配も感じられない。 すっかり色が褪せた松の葉やナナカマドだろうか、潰れた赤い実が足元に散らばっている。 足早にストリートを通り過ぎるうち、なんと言うか…油と酢が混ざったような臭いが強くなってきた。 「…サトル。敵が近くにいるようだ。」 スラッグがボソリと言う。 俺は頷き、辺りを素早く見回しながら、建物の方に身を寄せていった。 奇襲を避けるため、壁を盾にしようと考えたのだが……その考えは少し、浅はかだった。
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