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油のような匂いがハッキリとわかるほどに、強くなっている。
俺はスラッグを身にまとい、右手に拳を装備し、全身にスラッグの体のプロテクターを回した。
体調も良好、全身には闘志が漲っている。
だが、その不慣れな匂いが幾分気分を悪くし始めていた。
「……何か異質な気を感じる。しかも、多い。」
空気がねっとりと重くなってきたように感じる。
そして足元から、ゆっくりと白煙が上がり始める。
「…!!」
その時、俺が背にしていた建物の壁がドロリと崩れると、そこから焦げ茶色の手のようなモノが突然現れた!
俺は咄嗟に身を引くが、その手は俺の袖口を掴み、そのまま離さない。
油のような異臭がさらに濃くなり、それは壁からドロリと現れた。
「……なんだコイツは!? ドリーマーか??」
「サトル!囲まれてるぞ。気をつけろ。」
それはまるでゾンビのようだった。
ドロドロに溶けた姿をした人型の化け物が四方八方からゆっくりと近づいている。
それは体から油のような匂いを吹き出しながら、ゆっくりとゆっくりと、しかし間違いなく俺に向かって近づいている。
俺はさすがに恐怖を感じ、掴まれている袖の裾を思いっきり引っ張ってその化け物から逃れた。
そいつは低い唸り声を上げて、両手を挙げて俺に掴みかかってくる。
「…こいつらからは生気を感じられん。だが、俺の攻撃も通用しない気もする。元々溶けてるしな…ハハハ!」
スラッグが自分の言葉で笑う。俺も苦笑しながら、とりあえず手を伸ばしてくるメルトモンスターに向かってワンツーパンチを打ち込む。
それはさながら、泥を殴っているようでやはり手応えが薄い。
敵はまた掴みかかってくるが、俺はひらりと転換して回避した。
「サトル!後ろだ!」
そして後ろからさらに2体、目の無いメルトモンスターがゆっくりと掴み掛かってくる…が、こちらも間合いを取り避けると、俺は右手から溶解液を噴出してみた。
ブシューーーという音を立てて、モンスターどもに溶解液が降り注ぐ。
それは白煙を上げながらグズグズと動き、一瞬動きが止まる。
「お!行けるか?!」
「…あまり数を撃てない。とりあえず逃げるぞ、サトル!」
「そうだな、よし!」
俺はくるりと背を向けると、そのままダッシュをした。
動きの止まった目の前の三体の他、さらに四体のメルトモンスターが唸りながら近づいて来ていた。
「さすがにこんな数はどうしようできんな!逃げるが勝ちだ!」
俺はさらに足を速める…が、メルトモンスターどもはナメクジのように、地面に自らのオイルのような体を撒き散らしていて、脚を取られてしまい、なかなか思うように走り抜けられなかった。
「参ったな…似たような特徴の敵が相手だと、やはり相性が悪い!」
俺はできるだけ油を避けながら跳んだ。
スラッグも周囲に目を配りながら、俺の行く先をナビする。
その時だった。
頭上で、若い女の笑い声が聞こえた。
俺たちは見上げることもせず立ち止まると、臨戦態勢を取り、声の聞こえた方を睨みつけた。
「あの有名なルーラーと渡り合った日本のルーキーって聞いてたのに!
あたしのポーンにすら全然敵わないなんて!!
とんだ無駄骨だわ!」
女はキャハハハと笑いながら、空中に浮遊し高笑いをしていた。
それはまるでピエロのような、奇抜な衣装とメイクをした、赤髪の女だった。
「こいつは… また濃いのが出たな…」
俺は深いため息とともに、逃げきれないことを悟った。
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