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モロゾウと呼ばれたメルトモンスターの集合体は、ズシンズシンと大地を揺らしながら、ゆっくりだが確実に大きな一歩で俺たちに迫る。
あたりは民家に囲まれているが、どこに逃げようと象のモンスターは容赦なく破壊をしながら真っ直ぐに進んでくる……。
メリメリバキバキ!と材木や家具が破壊される音と、蹴散らされる煉瓦や石が土埃を上げる。
そしてその頭上では、空中に浮かんだまま道化女がそのモンスターを操っている。
「…サトル、やはりルーラーを仕留めよう。でなければやられるのは俺たちだ。」
「……そのようだな。だが、溶かすのは避けたい…最も、この距離では届かないだろうけどな!」
俺とスラッグは走りながら思案した。
すぐ後ろでは魔象が建物を破壊しながら俺たちに迫っている。ルーラーが狙っている限り、いつかは踏み潰されてしまうだろう…
だが、魔象は突然動きを止めると、瓦礫や材木を鼻でつまみ、それを大きく振り回し始めた。
「やっぱりそうなるよな!スラッグ!!」
俺たちは走り続け、魔象が投げつけた瓦礫の弾丸を観察し、引き付けた。
下手に動けば、そのスケールの大きさを読み誤り潰されてしまいそうだ。
「アハハハハハ! やはりアナタもビショップには勝てないのね!
私のモロゾウくんは何人ものルーラーとドリーマーを倒してきたわ!
あなたもその戦績のひとつになるのよっ!」
「お前…やはり能力に呑み込まれているようだな!なら、尚更負ける訳にはいかねえ!」
俺は急に頭にきて、逃げるのをやめた。
そして瓦礫の弾丸をギリギリに引き付けて避けながら、足に回転を掛けて加速を上げた。
足にスラッグの体を纏うことで、重さは増えるが、回転カブトの力を集中することでむしろ地面を滑るように移動できることを発見した。
…もちろん、応用に気がついて実用化したのはスラッグだが……。
「サトル、回転は万能だ!このまま象に乗り、あの女を仕留める。
どうも女には甘いから、ドリルじゃなくて拳で殴る。それならいいか?」
「ああ、それでいこう!」
俺たちは意思をひとつにして、次々と投げつけられる瓦礫の隕石をくぐりながら、勝利の道を加速した。
そして今や瓦礫まで取り込んで、さらに大きくなった高さにして20メートルを越えた肥大化した魔象から、10メートル付近にまで近づく。
相変わらず、油のような鼻に残る濃い匂いがする。
「この匂いは…気になるな。」
「…おそらくこのモンスターはドリーマーじゃない。あの女が能力で作り出している、自動人形だと思う。」
スラッグが頭の中にそう告げる。
そして足元の回転を調整し、俺たちは魔象の巨大な足に飛びついた。
そして粘液を手足から噴出し粘着すると、クライミングを始めた。
「…この油のような匂いは、なんだかよく解らないが、このモンスターが出している匂いってことか!
何にしても本体のドリーマーが他にいるって事だよな!」
「…あぁ。だが、本体の気配が掴めん。
これだけの能力を与えるほどのドリーマーだが…残念だが、俺も知らん。」
俺は忙しく全身を動かしながらもスラッグと会話を続けた。
脅威の粘着力を持つスラッグの粘液を足場にして、ほぼ垂直な足を登っていった。
粘液と回転力を使うと、特別筋力が無くてもグイグイと登っていける。
俺は風のうねりと魔象のうなり声を感じながら、敵の背中へと登りきった。
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