『西から昇るもの』

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泥の魔物で作られたとはいえ、瓦礫や砂岩を取り込んだ「大盾」は相当硬かった。 俺とスラッグの渾身の回転で、少しづつ穴を穿つものの、なかなか貫通ができない。 熱と煙がモウモウシュウシュウと立ち込め、大盾には少しづつヒビが入っていくが、やはり時間がかかっている。 だが、敵もさるもの… 大盾の向こうにさらにもう1枚、同じく大盾を作り出し、さらに高みに逃げる姿が見えた。 「スラッグ!このまま貫通できないと逃げられちまう!」 「……サトル、よく観ろ。あの女、まるで何かの足場に乗って上へ上へと移動している。 煙が出たから、ぼんやりとソレが見えてきたぞ…?」 高速回転の中、スラッグがニヤリとそう言った。 俺も回転を止めることなく、目線を上に上げてその向こうを見やり、目を細めた。 …道化女が、軽やかにふわーっと上昇をしている様子が見えたが、その足元は右、左と交互に移り、やはり何かを足場にして乗っている。 そして登っていく高さも、せいぜい50センチか、1メートルぐらいのようだ… そして、ドリルの摩擦で吹き上がる白煙の向こうに、巨大な何かが見えた。 ……木だ。 とてつもなく大きな木がある。 それは先程の魔象のサイズ所ではない。 目勘で100メートル以上はあろうか、とても高く細長い樹木のようだ。 細長いとはいえ、木の太さは相当なもののようだ。単純に見て、直径3メートル以上あるように感じる。 煙に巻かれながら、幹はほぼ真っ直ぐにそそり立ち、枝があちこちに見えてきた。 道化女はその枝を足場にして、俺たちの攻撃から間合いを取っている。 「……見えない能力を持つ、樹木のドリーマーのようだな。それが本体だ。どうりでこの泥人形からは生命の気配を感じないわけだ。」 スラッグが呟く。そして1枚目の盾が高い音と共に貫通され、粉々に砕け散った。 土砂と瓦礫が辺りにぶちまけられ、それは熱と煙の中、辺りにキラキラと飛び散っていった。 この下に誰かがいたら、土砂の雨でおそらく怪我をする事だろう… そして俺たちは突貫を止めることなく、2枚目の盾に穴を穿ちはじめる。 「このまま本体に気づかないフリをして、あのドリーマーを攻撃しよう、スラッグ!」 「…ああ。バレないといいがな!」 俺たちはなんとなく顔を合わせた気になり、2人してニヤリと笑った。 そしてさらに回転を上げ、スラッグが自らのボディを俺の体を軸にして足先から頭へ、頭から足先へと行ったり来たりをして、そのしなやかなゴムのようなボディを大盾に叩きつけ始めた。 「…なるほど!ドリルだもんな!」 いわゆる、インパクトである。 工事工具の振動ドリルのように俺たちの全身は叩きつけるピストン運動のようなエネルギーを得て、轟音を上げながら穴を穿つ。 そして敵を守る騎士の盾が、先程よりも早くひび割れ始めた。
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