月をあおぐ

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 コンビニに向かおうとする僕の腕を穂乃ちゃんが引っ張る。 「公園のほうに行こうよ。」  そうだった。  ごく自然に足が向いてしまう。 「アイスを買おうと思ってた。」  僕はごまかす。  わあっと笑って穂乃ちゃんが走り出す。  今度は僕が穂乃ちゃんの腕を引っ張る。  駐車場で走り回るのは危ないって、何度も言ってるのに。  マンゴーのソフトクリームを選んで、ふたりで分けた。 「貴社と御社の違いは覚えましたか?」  穂乃ちゃんがいかめしい口ぶりで聞く。  僕は呆れる。 「さすがにそんな質問は、されないと思うよ。」 「恩赦(おんしゃ)かと思わなかった?初めて聞いたとき。」  僕たちは仲が良い。  仲良くまだ、どこからも内定をもらっていない。  夏休みも近いのに。  早々と内定をもらった友達は、髪の色を戻して遊んでいるのに。  自己分析という言葉が恐ろしいと思う。  分析して切り刻んだら、何も残らないんじゃないかって。  コンビニとアパートとマンションに切り取られた空の上、駐車場の宙空に、作り物のようにまばゆく輝く月があった。
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