月をあおぐ

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 公園に着いた。  噴水のある大きな公園じゃなくて、こじんまりした僕たちのお気に入りの公園。  ぶらんこも滑り台も無くて、子どもたちには不人気。  なぜか鉄棒とターザンロープがある。  真ん中がはげやまのような、こんもりした丘のようになっていて、空が開けている。  確かに月を見るのにぴったりだった。  ストロベリームーンなんて、ロマンチックなピンク色を想像していたけど、眩しすぎて怖いくらい光っている。  月のうさぎも見えないほどだ。  わずかな雲も、月に照らされて戸惑っている風情。 「律ちゃん、光を浴びなくちゃ。ほら成熟した大人になるんだよ。」  穂乃ちゃんは丘の上で両手をいっぱいに伸ばした。  光を浴びるというより、月をつかもうとしているみたい。  月はあまりに高いところにあった。  僕は考えごとをしていた。  いつかマンハッタンかパリかベルリンに住みたい、なんて言ってた。  中途半端な地方の、巨大なアメーバみたいな学園都市の、こんなところはさっさと出て行くんだなんて。  穂乃ちゃんがあんな、住所欄に入りきれないみたいな名前の分譲マンションに住みたいだなんて。
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