月をあおぐ

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 穂乃ちゃんは月明かりの下で、スマートフォンをいじっていた。  泣きそうに見えるのは、何でだろう。  穂乃ちゃんのこういう時の顔は、何か言いたいことが言えないとき。  僕と目が合うと穂乃ちゃんは元気の良い声を出した。 「律ちゃん、組体操しようか。」  僕のスニーカーの下で砂がじゃりっと音を立てて滑った。  大人になるとか、そういう話をしてた気がするんだけどな。 「ふたりで出来る組体操っていうのも、いろいろあるよ。」  僕たちはおでこを寄せ合う。  シャチホコは却下。  地面にお尻をつきたくないから。  同じ理由でツインピークスも。 「弱虫だなぁ。」  穂乃ちゃんは笑うけど、自分だってアウトドアとか体育とか苦手なくせに。  ためしに高床式倉庫というのをやってみた。  どういうところが高床式なのかよく分からないけど、お尻は汚さず済んだ。  お互いの片脚を持ち上げる。  背の高さが違い過ぎて絵的におかしい。  僕の脚が細くて羨ましいと穂乃ちゃんが、ふてくされる。  穂乃ちゃんの太ももの意外にぽっちゃりしたところは可愛いのに。  次はこれにしよう、と穂乃ちゃんが選んだのはサボテンだった。  ひとりがスクワットみたいな姿勢をして、もうひとりがその膝の上に乗る。 「律ちゃんがわたしの膝に乗りなよ。律ちゃんは月に近づかなくちゃ。」  僕は首を振った。  ちびっこの穂乃ちゃん。世の中には出来ることと出来ないことが、あるんだから。  なんとか納得した穂乃ちゃんが、スニーカーを脱いでよろよろと僕の膝に乗っかる。片足ずつ。  僕は後ろ向きにすてんと転びそうなところを堪える。  月明かりの中で、穂乃ちゃんの身体を必死に引き寄せる。  腰にな姿勢。  穂乃ちゃんがそろそろと身体を起こす。  こわいこわいと騒ぐ。 「律ちゃん、離さないで。ちゃんとわたしの脚、持ってて。」  僕だって、むしろ手を離したらひっくり返ってしまう。 「律ちゃん、律ちゃん。ぐらぐらしてこわい。」  こっちも必死なんだよ、と思う。  小学生のほうが、上手かったりして。 「できた!」  存外ほがらかな声がして、穂乃ちゃんが両手を広げた。  僕の膝の上でタイタニックみたいなポーズ。  感心した。一度バランスが取れてしまうと安定するものだ。 「律ちゃん、どうしよう。せっかく出来たのに写真が撮れないね。」  僕は吹き出す。  それは無理だ。
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