月をあおぐ

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 僕の膝から降りるときも一苦労だった。  ポーズが決まってバランスが取れているときは、平気なのにな。  こわいと繰り返す穂乃ちゃんをなだめすかして、地面に下ろしてあげた。  穂乃ちゃんは靴下のまま砂利の上に立つはめになった。  僕も汗をかいていた。  気温はさほどでもないけど、蒸し蒸しする、6月も終わりかけ。 「こわいよう。」  穂乃ちゃんはそのまま地面にしゃがみ込んだ。 「こわいよう。」  僕は屈んで穂乃ちゃんの背中をぽんぽんと叩く。 「こわいよう。」  穂乃ちゃんの背が震えているのに気が付いた。 「律ちゃん。わたし、山羽市の一般職の採用通知、来てたの。」  山羽市というのは僕たちの大学がある、まさにこの場所のことで、穂乃ちゃんが "記念に" と試験を受けたのは知っていた。  月が輝きを増した。  
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