月をあおぐ

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 パーマ液独特のつんとする匂い。  シャンプーで洗い流してもまだ残ってる。  穂乃(ほの)ちゃんがトリートメントを貸してくれて、それも使った。  鏡に映る絶妙で微妙な髪型にため息。 「微妙だね。」  穂乃ちゃんが嬉しそうに言う。 「やっぱりホームストレートパーマには限界あるね。」  あんまり強くすると髪の毛が切れて無くなっちゃうらしいから、控えめにやってみた訳だけど。  うねうねした失敗作みたいになった。 「なんていうんだっけスパイラル?もったいないね。(りっ)ちゃん、似合ってたのに。」  僕が、友達に紹介されて美容院のカットモデルをやったのが5日くらい前。  言われるまま強めのスパイラルパーマをかけてもらって、明日が三次面接だと思い出したのが今日の夕方。  正確には思い出したわけじゃない。  考えないようにしていた。  面接って何度か受けてみたけど、やっぱり緊張する。  不採用の、今後のご活躍お祈りメールを読むのも、慣れちゃうものなのかな。   「穂乃ちゃんだって昔やってたじゃん、こういう髪型。」  えー、と穂乃ちゃんが台所から顔を突き出す。 「覚えてるの?」  覚えている。  大学一年生。シラバスを受け取りに行った日だった。  爆発するみたいな髪型でブルーライトカット用眼鏡をかけて、この世の全てを警戒するみたいな顔をしてた18歳の穂乃ちゃん。 「わたしのはツイストパーマってやつじゃなかったかなぁ。」  パーマは、あの頃の穂乃ちゃんを思い出して、だからかけてもらったんだ。  一年生の夏休み明けに、可愛い子がいるって噂になった。  穂乃ちゃんは髪型を変えてた。肩上のゆるふわボブにしてて、眼鏡を外してた。  僕は正しかった。  穂乃ちゃんは可愛いって分かってた。  ANNAっていう昔のフランス映画で、眼鏡をかけたアンナ・カリーナの魅力に誰も気が付かないなんて、おかしいと思ってたんだ。  眼鏡をかけてても髪型がどんなでも、可愛いものは可愛い。  でも僕は慌てた。  今さら遅れをとってなるものか。  大慌てで、校舎の出入り口の自販機の前で告白した。
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