70点男に言い寄られ

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70点男に言い寄られ

「超寒いんですけど・・・」 夜景が綺麗な海でも手を擦り付けても震えがくる程の気温となれば、雰囲気も何もない。 寄せては返す波の音もその寒さをいや増すばかり。 ―――大晦日に何をしているんだろう、私。 ―――このお正月前夜になる年越し前って、日常が青から赤に変わるくらいの変化があるよね。 ―――その変わり目を本当は家でまったりとテレビを見ながら過ごしたかったんだけどなぁ・・・。 口から洩れる溜め息が白く輝き、その煙が晴れるとぼんやりと映る人影。 何のことはない、その男性は待ち合わせの相手である。 「待たせたな。 一葉(イチヨ)さん」 「あ、四聖(シセイ)くんこんばんは・・・」 二人は自然と並んで海を見る。 「夜景、綺麗ですね・・・」 「そうだな。 でも俺は一葉さんの方が綺麗だと思うけど」 「はは・・・」 特に振る話題もなく当たり障りのない話を振ってみたが、その返答に変な顔になってしまった。 大晦日という大きなイベントで男女がムードたっぷり(極寒)の場所で二人。 だが二人は付き合っているわけではない。  「・・・ねぇ。 一葉さんのこと俺にちょうだいよ?」 「えぇ・・・」 「もう答えは決まっているんでしょ?」 「えぇと・・・」 “いや、流石にそれはないだろ!” そんな言葉が口から出かかったが、すんでのところで止めた。 更に追い打ちでもあれば反論せざるを得なかったのかもしれないが、幸い――――なのかどうかは分からないが、もう一人の待ち合わせ相手の男性が到着した。 「おい、待てぃ!! 何抜け駆けをしようとしてんだよ! っと、お待たせ。 一葉さん!」 「お前こそ、一葉さんを待たせて超遅刻して登場ってどういうことだよ?」 「主役が遅れて登場するのは当たり前だろ?」 「はぁ? 主役は一葉さんに決まってんだろ」 ちなみにであるが一葉はほぼ待ち合わせ時間ぴったりに来たため、二人共遅刻である。 少し遅れてくる可愛い天然女性、そんな演出をする気もなかったがまさか待たされるとも思っていなかった。 「紅夜(コウヤ)くん、こんばんは・・・」 「こんばんは。 もう僕を選ぶって決めてくれたよね!」 「えっと・・・」 「これだけは言っておく。 僕は思っていた以上に一葉さんに惚れていたみたい。 だから本気だよ」 「ッ・・・」 何故かその言葉にドキッとしたのは、残念な中身を補って余りある最上位クラスの容姿をしているためだ。 一般男性がやれば後ろ指刺されそうなポージングも見事に決まっていたりする。 「おい! 一葉さんを勝手に横取りするな」 「横取りしたのはそっちだろ?」 二人は同じ学校の生徒で、全学年合わせても3位以下をぶっちぎりに突き放した1位2位を争うイケメン二人。 羨ましがられる状況かもしれないが、実際になった時の気苦労は計り知れない。 「一葉さんを悲しませたら絶対に許さない」 「奇遇だな。 俺もそう思っていたところだ」 「一葉さんを守ることはできるのか?」 「その覚悟がなかったらここへ来ていないさ」 ―――二人共お願い、私のことで争わないで・・・。 ―――私はそんなことを望んではいないの。 ―――私が望んでいるのは・・・。 一葉も待ち合わせに来ていることから完全に縁がないと思っているわけではない。 もちろん前傾でここへやってくる程前向きでもない。 二人は同時に一葉のことを見た。 そして片手を差し出してくる。 「「さぁ、一葉さんはどっちを選ぶ?」」 年越しまで30分を切っている。 一葉が選んだ人と元旦を一緒に過ごすことに決まっていた。 というか、決められた。 「えぇと・・・」 ―――私は今イケメン二人に言い寄られています。 ―――一体どうしてこうなったんでしょう・・・? 二人は確かにイケメンだ。 だが中身からしても分かるように、各々にかなりの欠点があった。 四聖は彼女がたくさんいるチャラ男で紅夜は自分が大好きナルシスト男。 二人は顔だけがいい90点、いや70点男たちである。
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